神戸大学が発見|川の細菌がPFASを減らす仕組みとは?新しい除去技術の可能性を解説
PFAS(有機フッ素化合物)は、自然界でほとんど分解されないことから「永遠の化学物質(Forever Chemicals)」とも呼ばれています。そのため、水道水や地下水などから除去するには、活性炭やイオン交換樹脂、逆浸透膜(RO膜)などの技術が主流となってきました。
こうした中、2026年7月、神戸大学の研究チームは、実際にPFASで汚染された河川から、PFAS濃度を低減する能力が確認された細菌を発見したと発表しました。
本記事では、PFASの基礎知識とともに、この研究で何が分かったのか、既存の除去技術との違い、そして実用化に向けた課題まで、一次情報をもとに分かりやすく整理します。
そもそもPFASとは?なぜ除去が難しいのか
PFAS(ピーファス)は「有機フッ素化合物」の総称で、その種類は数千とも言われています。
水や油をはじく性質や耐熱性に優れていることから、
- フライパンのコーティング
- 防水加工製品
- 泡消火剤
- 半導体製造
- 医療・産業用途
など、幅広い分野で利用されてきました。
一方で、PFASは炭素とフッ素が非常に強く結び付いているため、自然界ではほとんど分解されません。
そのため環境中に長期間残留しやすく、「Forever Chemicals(永遠の化学物質)」とも呼ばれています。
近年では、各国で水質調査や規制が進み、日本でもPFASへの関心が高まっています。
今回の研究で対象となった主なPFASは次の3種類です。
- PFOS(ペルフルオロオクタンスルホン酸):かつて泡消火剤などに広く使用
- PFOA(ペルフルオロオクタン酸):フッ素樹脂の製造などで利用
- PFHxS(ペルフルオロヘキサンスルホン酸):比較的短い炭素鎖を持ち、除去が難しいPFASの一つ
神戸大学が発見したこと ―― 川の細菌がPFASを減らす
神戸大学バイオシグナル総合研究センターの乾秀之(いぬい・ひでゆき)准教授らの研究チームは、実際にPFASで汚染された河川から、PFAS濃度を低減する能力が確認された細菌を発見しました。
研究成果は2026年7月15日に公表され、学術誌 Journal of Water Process Engineering に掲載されています。
研究では、次のような結果が報告されています。
- Xanthobacter属:PFOSを最大17.8%低減
- Priestia属:PFOAを最大14.1%低減
さらに、実際の産業廃棄物最終処分場の浸出水(廃棄物からしみ出した水)を用いた試験では、PFHxSについて特定の試験条件下で最大97%の低減が確認されました。
この97%という数値は、すべてのPFASやあらゆる環境条件で同じ効果が得られることを示すものではなく、研究条件下で得られた結果である点に注意が必要です。
この研究のポイントは「分解」ではなく「吸着」
今回の研究で特に注目されたのは、PFAS濃度を低減する仕組みです。
研究チームによると、PFASは細菌によって化学的に分解されるだけでなく、細菌の表面や、細菌が分泌する細胞外高分子へ吸着(くっつく)することが、大きな役割を果たしていました。
つまり、生き物の力を利用してPFASを「捕まえる」という、新しいアプローチが示されたのです。
この点が、今回の研究の最も重要な成果といえます。
既存のPFAS除去技術と何が違うのか
現在実用化されているPFAS除去技術の多くは、「水からPFASを分離・回収する」技術です。
| 技術 | 分類 | 実用状況 | 主な課題 |
|---|---|---|---|
| 活性炭吸着 | 吸着 | 水道などで広く利用 | 使用済み活性炭の交換・処分、短鎖PFASは除去しにくい場合がある |
| イオン交換樹脂 | 吸着 | 国内外で導入拡大 | 樹脂交換・処分コスト |
| RO膜(逆浸透膜) | 膜分離 | 高い除去性能 | 濃縮排水の処理、エネルギーコスト |
| 分解技術(焼却・光分解など) | 分解 | 研究〜一部実用 | 高エネルギー、高コスト |
| 細菌による除去(今回) | 生物利用 | 研究段階 | 除去率向上、長期安定性、代謝産物の評価 |
これまで主流だった技術は、PFASを水から分離することはできますが、回収したPFASをどのように処理するかという課題が残ります。
今回の研究は、これらの既存技術を置き換えるものではなく、「生き物の力を利用する」という新しい研究の方向性を示したことに大きな意義があります。
実用化に向けた課題
今回の成果は非常に興味深いものですが、現時点では研究段階です。
実験室で確認された17.8%、14.1%という低減率は、まだ実用技術として十分な水準とは言えません。
また、PFHxSで最大97%という結果も、特定の試験条件で確認されたものです。
研究チームは今後の課題として、
- 分解過程で生じる代謝産物の評価
- 長期間安定して機能するか
- 実際の浄化設備で利用できるか
- 吸着したPFASの回収・処理方法
などを挙げています。
つまり、この研究は「PFAS問題が解決した」という話ではなく、新しい除去技術の可能性を示した第一歩と考えるのが適切です。
まとめ
これまでPFAS除去は、活性炭やイオン交換樹脂、RO膜、高温分解など、人工的な技術が中心でした。
今回の神戸大学の研究は、その中に「生き物の力」という新しい選択肢を加える可能性を示した研究です。
現時点では研究段階であり、実用化には多くの検証が必要ですが、「川に生息する細菌がPFAS濃度を低減できる可能性がある」という発見は、今後のPFAS対策における重要な成果の一つといえるでしょう。
PFAS Solutions+では、今後も論文や行政資料などの一次情報をもとに、PFAS除去技術の最新動向を継続して紹介していきます。
関連記事
- PFASとは?基礎からわかりやすく解説
- PFAS除去技術の比較まとめ
- 活性炭によるPFAS除去の仕組み
- イオン交換樹脂によるPFAS除去
- RO膜(逆浸透膜)はPFASをどこまで除去できる?
- PFAS分解技術の最新動向
よくある質問(FAQ)
PFASはなぜ「永遠の化学物質」と呼ばれるのですか?
炭素とフッ素の結合が非常に強く、自然界ではほとんど分解されないためです。そのため環境中や体内に長く残りやすいことから、「Forever Chemicals(永遠の化学物質)」と呼ばれています。
今回の研究で最も新しかった点は何ですか?
PFAS濃度を低減する能力が確認された細菌を河川から見つけ出したことに加え、PFASの低減には「分解」だけでなく、「細菌表面や細胞外高分子への吸着」が重要であることを示した点です。
97%という数字は、すべてのPFASで同じ効果があるという意味ですか?
いいえ。97%という結果は、実際の産業廃棄物最終処分場の浸出水を用いた特定の試験条件で、PFHxSについて確認されたものです。すべてのPFASや環境条件で同じ効果が得られることを示すものではありません。
この技術はすぐに浄水場などで使われるのでしょうか?
現時点では研究段階です。代謝産物の評価や長期安定性、実設備での有効性など、今後の検証が必要です。
活性炭など既存技術より優れているのですか?
現段階では、既存技術を置き換えるものではありません。活性炭やRO膜などの技術に加わる、新しい選択肢として研究が進められています。
家庭で今すぐ活用できる技術ですか?
いいえ。この研究は水処理施設などでの将来的な利用を目指した研究です。家庭では、自治体の水質検査結果を確認し、必要に応じてPFAS対応の浄水器などを検討することが現実的な対応となります。
出典
- 神戸大学ニュース「河川にすむ細菌が『永遠の化学物質』PFASを除去」(2026年7月15日発表)
- Journal of Water Process Engineering(オンライン公開:2026年6月19日)
- 日本経済新聞「PFAS汚染環境に適応した細菌に除去能力 神戸大学、3種類特定」(2026年7月22日)































