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ダイキン淀川製作所のPFAS問題で第1回公害調停|「公害調停」とは何か、何が争点かを整理

2026.07.04

大阪府摂津市にあるダイキン工業・淀川製作所周辺のPFAS問題で、2026年7月1日、大阪府公害審査会による第1回の公害調停が開かれました。

報道によれば、企業を相手方とするPFASをめぐる公害調停は、全国で初めてとみられます。
本記事では、これまでの経緯と当事者双方の立場を整理したうえで、「そもそも公害調停とはどんな手続きなのか」「裁判と何が違うのか」「何が争点になり得るのか」を、できるだけ中立にわかりやすく解説します。

※本記事は、【企業シリーズ】「ダイキン工業とPFAS」の続報です。

この記事のポイント

2026年7月1日、ダイキン工業を相手方とするPFAS公害調停の第1回期日が開かれました。企業を相手取ったPFAS公害調停としては、全国で初めてとみられます。

申立ては2025年12月、摂津市の住民ら約800人が大阪府公害審査会に行いました。その後、申立人は1100人を超えたと報じられています。

住民側は、PFASに関する調査資料の情報開示、無料の健康診断・健康調査、継続的な地下水調査、汚染対策や補償を話し合う協議会の設置などを求めています。

淀川製作所では、PFOAが2012年まで長期間使用されていました。工場周辺の地下水からは、国の目標値を大きく上回る濃度のPFASが検出されたと報じられています。

公害調停は、裁判のように判決で白黒をつける手続きではありません。第三者である調停委員会が間に入り、話し合いによる合意を目指す手続きです。

これまでの経緯

ダイキン工業・淀川製作所では、フッ素化学製品の製造に関連して、PFOAが長期間使用されてきました。

ダイキン工業の公表資料によると、同社は1960年代後半からPFOAの取り扱いを開始し、1980年代からは自社でのPFOA製造も始めています。その後、2012年に国内拠点でのPFOAの製造・使用を終了し、2015年には国内外すべての拠点でPFOAの製造・使用を終了したとしています。

また、同社は2009年から淀川製作所敷地内の地下水中に含まれるPFOAへの対策として浄化に取り組み、2020年以降は地下水調査や浄化・流出防止対策を強化していると説明しています。2023年には遮水壁建設工事に着工し、2025年には新たな浄化設備工事にも着工したとされています。

一方で、大阪府の調査では、淀川製作所周辺の地下水から国の目標値を大きく上回る濃度のPFASが検出されたと報じられています。報道では、国の目標値の「約560倍」(関西テレビ)、「約520倍」(読売テレビ)と伝えられており、いずれにしても非常に高い水準として受け止められています。

2025年12月23日、淀川製作所周辺の住民ら約800人が、大阪府公害審査会に対して公害調停を申し立てました。申立人側は、PFAS汚染に関する情報開示、継続的な環境調査、健康調査、住民・行政・学識経験者などが参画する連絡協議会の設置を求めています。

その後、2026年5月に第2次申請が行われ、申立人は1100人を超えたと報じられています。関西テレビは、近隣住民ら1100人以上が無料の健康診断や情報開示を求めて公害調停を申請し、2026年7月1日に第1回の調停が開かれたと伝えています。

当事者双方の立場

住民側が求めている主な内容は、次のとおりです。

  • PFASに関するダイキン工業の調査資料の開示
  • 無料の健康診断・健康調査
  • 継続的な地下水等の調査
  • 汚染対策や被害補償を話し合う協議会の設置

住民側の主張の中心にあるのは、「何がどこまでわかっているのかを開示してほしい」「健康への影響を確認する仕組みを作ってほしい」「一度きりではなく、継続的な協議の場を設けてほしい」という点です。

一方、ダイキン工業は、PFOAに関する自社の取り組みとして、PFOAの製造・使用終了、地下水の揚水・浄化、遮水壁の設置、浄化設備の増強などを公表しています。同社は今後も浄化活動や設備拡充に取り組むと説明しています。

調停は非公開で進められるため、今後の具体的なやり取りは、当事者や報道機関を通じて公表される範囲で確認していく必要があります。

そもそも「公害調停」とは何でしょうか

公害調停は、公害紛争処理法に基づく行政型ADR、つまり裁判外紛争解決手続の一つです。

公害紛争処理制度には、あっせん、調停、仲裁、裁定の4つの手続きがあります。国には公害等調整委員会、都道府県には公害審査会等が置かれ、紛争の性質に応じて手続きを行います。環境省の資料でも、公害紛争は公害等調整委員会および都道府県の公害審査会等が、公害紛争処理法に基づいて処理すると説明されています。

公害調停では、調停委員会が当事者の間に入り、双方の意見を聞きながら、話し合いによる解決を目指します。

裁判との主な違いは、次の点です。

  • 判決のように白黒をつける手続きではなく、双方が合意できる解決策を探る手続きである
  • 手続きは原則として非公開で行われる
  • 申立費用が訴訟に比べて低額で、多数の住民が参加しやすい
  • 因果関係の厳密な立証を待たずに、情報開示、調査、協議の枠組みづくりといった合意を目指せる

公害紛争処理法では、調停委員会が行う調停手続きは公開しないと定められています。また、調停が成立した場合の合意は、民法上の和解契約と同じ効力を持つと説明されています。ただし、調停による合意には判決のような強制執行力はなく、合意内容を強制的に実現するには、別途訴訟などが必要になる場合があります。

つまり、公害調停は「命令する場」ではなく、「合意をつくる場」です。

何が争点になるのでしょうか

今後の調停で焦点になり得るのは、大きく3点です。

1. 情報開示の範囲

第一の争点は、企業が保有する過去の使用実態、排出、調査、対策に関する情報を、どこまで住民側と共有するかです。

PFAS問題では、現在検出されている濃度だけでなく、過去にどの物質が、どの工程で、どの程度使用・排出されていたのかが重要になります。

ただし、企業側には営業秘密や技術情報の保護という事情もあります。したがって、調停では、どの情報を、誰に、どの範囲で、どの形式で開示するのかが論点になると考えられます。

2. 健康調査の主体と費用

第二の争点は、健康調査です。

住民側は、無料の健康診断や健康調査を求めています。ここで問題になるのは、血中濃度検査などを実施するのか、対象者をどの範囲にするのか、費用を誰が負担するのか、検査結果をどのように説明し、フォローするのかという点です。

PFASと健康影響の関係については、科学的にわかっていることと、まだ不確実なことがあります。そのため、単に検査を実施するだけでなく、結果の読み方や相談体制まで含めた設計が必要になります。

3. 継続的な協議の枠組み

第三の争点は、継続的な枠組みを作れるかどうかです。

PFASは環境中で分解されにくく、地下水や土壌の問題は短期間で解決しにくい性質があります。そのため、一度きりの説明会や単発の調査ではなく、地下水モニタリング、情報共有、住民説明、対策の進捗確認を継続する仕組みが重要になります。

住民、企業、行政、専門家がどのように関わるのか。協議会のような場を設けるのか。調査結果をどの程度の頻度で公表するのか。こうした点が、調停の実務上の焦点になっていくと考えられます。

調停で「因果関係」はどう扱われるのでしょうか

PFAS問題で難しいのは、環境中の検出、体内へのばく露、個別の健康影響の関係を、どこまで科学的に整理できるかです。

裁判では、損害賠償責任や因果関係を法的に判断することが中心になります。一方、公害調停は、必ずしも因果関係の白黒を最終的に決める場ではありません。

むしろ、不確実性が残る中でも、当事者が合意できる現実的な対応を探る場です。

たとえば、

  • 追加調査を行う
  • 健康相談の窓口を設ける
  • 血液検査や健康調査の設計を協議する
  • 地下水モニタリングを継続する
  • 住民説明会を定期的に開く
  • 必要に応じて専門家を交えた協議の場を設ける

といった対応は、因果関係の最終判断を待たなくても、合意の対象になり得ます。

ここが、公害調停の大きな特徴です。

大切な注意点

今回の調停は非公開で行われています。そのため、本記事の内容は、当事者の公表情報、企業の公表資料、報道機関が伝えた情報、公害紛争処理制度に関する公的資料をもとに整理したものです。

検出濃度の倍率については、報道機関により「約520倍」「約560倍」と幅があります。本記事では断定を避け、報道ベースの数値として扱っています。

地下水の検出値は、工場周辺の地下水に関するものです。水道水の水質をそのまま意味するものではありません。水道水については、水道水質基準に基づいて別途管理されています。

また、本記事は、特定の当事者の法的責任を断定するものではありません。現時点で公表されている情報をもとに、PFAS問題における公害調停の意味と争点を整理するものです。

よくある質問

Q1. 公害調停とは、裁判と同じものですか?

いいえ。公害調停は裁判ではありません。

裁判は、裁判所が法律に基づいて権利義務や損害賠償責任を判断する手続きです。一方、公害調停は、調停委員会が当事者の間に入り、話し合いによる合意を目指す手続きです。

そのため、公害調停では、判決のように一方的に命令が出されるわけではありません。双方が受け入れられる解決策を探ることが中心になります。

Q2. 調停は公開されますか?

原則として公開されません。

公害紛争処理法では、調停委員会が行う調停手続きは公開しないと定められています。これは、当事者が率直に意見を述べ、冷静に話し合いを進めるための仕組みです。

そのため、調停の具体的なやり取りは、当事者や報道機関を通じて公表された範囲で確認することになります。

Q3. 調停が成立すると、どうなりますか?

当事者間で合意が成立すると、その内容を記した調停調書が作成されます。

調停で成立した合意は、民法上の和解契約と同じ効力を持つとされています。ただし、判決のように直ちに強制執行できるものではありません。合意内容を強制的に実現する必要がある場合には、別途裁判手続きが必要になることがあります。

Q4. 調停が不成立になることもありますか?

あります。

当事者間で合意が成立する見込みがないと判断された場合、調停は打ち切られることがあります。その場合、住民側が訴訟など別の手段を検討する可能性もあります。

Q5. 今回の調停で、健康影響や因果関係が判断されるのですか?

公害調停は、健康影響の有無や因果関係を裁判のように最終判断する場ではありません。

ただし、健康調査の実施、血中濃度検査の方法、健康相談体制、継続的なフォローアップの仕組みなどについて、当事者間で合意を目指すことは考えられます。

PFASと健康影響の関係には、科学的にわかっていることと、まだ不確実なことがあります。そのため、調停では「すべてが証明されてから動く」のではなく、不確実性を踏まえながら、どのような対応が現実的かを話し合うことが重要になります。

Q6. 地下水から高濃度で検出されたということは、水道水も危険という意味ですか?

いいえ。地下水の検出値と水道水の水質は分けて考える必要があります。

今回報じられている高濃度検出は、工場周辺の地下水に関するものです。水道水については、水道水質基準に基づいて別途管理されています。

ただし、地下水や土壌の汚染状況を継続的に把握することは、地域の不安に向き合ううえで重要です。

Q7. 企業側にとって、この調停はどのような意味がありますか?

企業側にとっては、法的責任の有無だけでなく、地域との信頼関係をどう再構築するかが問われる場になります。

PFAS問題では、科学的な説明だけでなく、情報開示、住民説明、継続的な対話の姿勢が重要になります。調停は、企業が地域住民と向き合い、合意可能な対応を探る機会にもなります。

Q8. 他の企業にも影響はありますか?

あります。

今回の調停は、PFASを過去に製造・使用していた企業、フッ素化学製品を扱う企業、地下水・土壌リスクを抱える事業所にとって、重要な先例になる可能性があります。

今後は、PFASを「規制物質の有無」だけで見るのではなく、過去使用、排出履歴、周辺環境、情報開示、住民との対話まで含めて管理する必要が出てくると考えられます。

まとめ

今回の調停が注目に値するのは、「訴訟か、沈黙か」の二択ではない選択肢が、PFAS問題で企業相手に動き出したことです。

米国では、PFASをめぐる大規模訴訟や和解が対応の枠組みになってきました。一方、日本の公害調停は、対話を通じて、調査、情報開示、健康調査、協議の枠組みを作る道を残しています。

もちろん、調停には限界もあります。強制力のある判決ではなく、合意が成立しなければ不成立となります。だからこそ、企業側の情報開示の姿勢、住民側の不安の整理、行政や専門家の関わり方が重要になります。

PFAS問題では、科学的にわかっていること、まだわかっていないこと、企業が説明すべきこと、行政が担うべきこと、住民が知りたいことが複雑に重なります。

リスクコミュニケーションの観点では、まさに「信頼される仲介者」の不在が問われる局面です。

pfasreach.jpは、特定の当事者を一方的に断定するのではなく、双方の主張と、科学的に確認できる事実を切り分けながら、この調停の行方を継続的に追いかけていきます。

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