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米ケマーズがPFAS汚染で約730億円規模の和解へ

連邦政府初の包括的合意と、日本企業が考えるべきこと

2026年6月24日、米国の環境保護庁(EPA)、司法省(DOJ)、およびウェストバージニア州環境保護局(WV DEP)は、化学大手ケマーズ(The Chemours Company)との間で、PFAS汚染をめぐる和解案に合意したと発表しました。

総額は4億5,000万ドル超。日本円にして、約730億円規模にのぼります。

EPAおよびDOJは、今回の和解を、PFAS製造企業を相手取った連邦政府として初の包括的な和解と位置づけています。
本記事では、報道で大きく取り上げられた「約730億円」という数字の内訳、和解の法的背景、ケマーズという企業の位置づけ、そして日本企業にとっての示唆を整理します。

何が起きたのか

「フッ素」と「PFAS」は同じではありません

はじめに、本サイトで繰り返しお伝えしている点を確認します。
「フッ素」と「PFAS」は同じものではありません。
フッ素は元素としてのフッ素であり、歯科、医薬、工業材料など、さまざまな分野で使われています。

一方、PFAS(ピーファス)は、炭素とフッ素が強く結びついた人工の有機フッ素化合物の総称です。水や油をはじく性質、熱や薬品に強い性質などから、工業用途や生活用品の一部で長く使われてきました。
本記事で扱うのは、あくまで後者のPFASに関する話題です。

和解の概要

今回の和解案は、ケマーズが米国内で保有する4施設に関するものです。
対象とされた主な施設は、次の4つです。

  • Chambers Works(ニュージャージー州)
  • Parlin(ニュージャージー州)
  • Fayetteville Works(ノースカロライナ州)
  • Washington Works(ウェストバージニア州)

EPAおよびDOJの発表によると、これらの施設ではPFASの製造または使用に関連して、複数の環境法令違反があったとされています。
具体的には、ノースカロライナ州のケープフィア川、ニュージャージー州のデラウェア川、ウェストバージニア州のオハイオ川へのPFAS排出が問題とされました。

また、必要な許可を取得していなかったケース、許可条件に違反していたケース、環境管理上の義務を十分に果たしていなかったとされるケースも含まれています。

根拠となった主な法律

根拠となった4つの法律今回の和解は、主に以下の法律に基づいています。

水質浄化法(Clean Water Act:CWA)

米国の水質保全に関する主要な連邦法です。
河川、湖沼、沿岸水域などへの汚染物質の排出について、許可制度や排出基準を定めています。今回の件では、PFASを含む排水の管理や、許可条件に関する問題が焦点の一つになっています。
有害廃棄物を含む物質が、環境中に不適切に放出されないよう管理するための枠組みを定めています。PFASを含む廃棄物や処理工程の管理にも関わる法律です。

資源保全回復法(Resource Conservation and Recovery Act:RCRA)

廃棄物の管理、処理、保管、処分に関する連邦法です。
有害廃棄物を含む物質が、環境中に不適切に放出されないよう管理するための枠組みを定めています。PFASを含む廃棄物や処理工程の管理にも関わる法律です。

有害物質規制法(Toxic Substances Control Act:TSCA)

化学物質の製造、輸入、使用、報告などを管理する法律です。
PFASについても、製造・使用・報告義務などの観点から、TSCA上の対応が問題となる場合があります。

ウェストバージニア州水質汚濁防止法

今回の和解には、連邦法だけでなく、ウェストバージニア州の水質汚濁防止に関する州法上の請求も含まれています。
このように、今回の和解は単一の法律だけではなく、水質、廃棄物、化学物質管理、州法上の水質保全といった複数の枠組みにまたがるものです。

現時点では「確定判決」ではなく、同意判決案

ここで一点、正確に押さえておきたいことがあります。

今回の和解は、同意判決(consent decree)として、ウェストバージニア州南部地区連邦地方裁判所に提出されたものです。
今後、パブリックコメント期間を経る予定であり、現時点で完全に確定した判決ではありません。

そのため、報道上は「和解」と表現されますが、厳密には、所定の手続きを経て裁判所の承認を受ける見込みの段階です。
PFAS関連のニュースでは、大きな数字だけが先に広がりがちです。こうした手続き上の位置づけも、落ち着いて確認しておく必要があります。

約730億円の内訳

タイトル:730億円の内訳
本記事のドル円換算は2026年6月時点の参考レート1ドル=約162円に基づく概算です為替変動により円換算額は変わります

今回の報道では、「約730億円」という総額が大きく注目されました。
ただし、この金額はすべてが罰金というわけではありません。
EPAおよびDOJが公表した主な内容は、以下のとおりです。

  • 民事制裁金:2,250万ドル
  • PFAS排出抑制と飲料水対応のための多年度プログラム:9,000万ドル
  • ウェストバージニア州Washington Works施設での汚染対策:約6,000万ドル
  • ウェストバージニア州およびニュージャージー州の周辺地域への処理済みまたは代替飲料水の提供:約2億8,000万ドル

この内訳を見ると、いわゆる制裁金にあたる部分は、総額の一部にとどまります。
費用の大半は、PFAS排出を抑えるための設備投資、汚染対策、そして周辺住民への飲料水対応に充てられる構成です。
つまり、今回の和解は「巨額の罰金を払って終わり」という話ではありません。

  • 出してしまったPFASを減らす。
  • 外に出さないための設備を入れる。
  • 影響を受けた地域に安全な飲料水を届ける。
  • 長期的にモニタリングし、管理する。

こうした対応の費用が積み上がった結果として、4億5,000万ドル超という金額になっています。

ケマーズという企業とデュポンからの系譜

ケマーズは、2015年に化学大手デュポンから分社化して設立された企業です。
PFAS、とくにPFOAをめぐっては、デュポン時代から長年にわたる訴訟や環境問題の歴史があります。

今回の和解も、ある日突然発生した単独の出来事ではありません。
長年にわたり使われ、排出され、環境中に残り、河川や地下水、飲料水の問題として表面化してきたPFAS問題の延長線上にあります。

DOJの申し立てによると、今回対象となった違反は10年以上にわたって続いていたと主張しています。ただし、これはあくまで申し立て段階の主張であり、現時点で事実が確定したものではありません。
長い時間をかけて蓄積した環境影響に対して、長期の排出抑制、設備投資、飲料水対応が求められている構図です。

なお、今回の和解で見落とせないのは、対象となった施設が長年にわたりデュポンによって所有・運営されてきたという点です。
DOJは今回の発表で、これらの施設は以前デュポンが数十年にわたって所有していたものであり、今回の和解はデュポンのPFASに関する責任を解決するものではない、と明言しています。

つまり、PFAS汚染をめぐる責任は、現在の操業主体だけにとどまりません。過去の所有者・前身企業にまでさかのぼって問われる構図になっています。
これは日本企業にとっても、「事業を引き継いだ/工場を取得した場合に、過去のPFAS使用の履歴をどこまで把握しているか」という観点で示唆を含みます。

製造そのものは継続が認められている

今回の和解で重要なのは、ケマーズがPFASの製造を全面的に停止するわけではない、という点です。
米政府の発表では、ケマーズが商業用途や軍事用途を含む重要な分野でPFAS製造を継続することは認められています。

背景には、現時点で代替品が容易に入手できない用途が存在することがあります。
PFASは、医療、半導体、エネルギー、防衛、電子部品、特殊材料など、社会インフラや先端産業に関わる用途でも使われてきました。

そのため、PFAS規制は「危ないからすべてすぐ禁止すればよい」という単純な話ではありません。

  • 必要性の高い用途をどう扱うのか。
  • 代替可能な用途をどう減らすのか。
  • 製造・使用を続ける場合に、排出をどう管理するのか。
  • 地域や水環境への影響をどう抑えるのか。

今回の和解は、PFASの製造継続を認めつつ、排出管理と汚染対策を強く求める枠組みだといえます。

評価が分かれる点もある

米政府は、今回の和解をPFAS汚染対策における重要な一歩と位置づけています。
一方で、すべての関係者がこの内容を十分だと受け止めているわけではありません。

報道によると、ノースカロライナ州側からは、州内住民への救済が不十分であるとの批判も出ています。
これは、PFAS汚染の難しさを示しています。

  • 同じ企業による問題であっても、施設ごとに排出経路は異なります。
  • 河川、地下水、飲料水、土壌、大気への影響も地域ごとに異なります。
  • 住民が抱える不安や、行政が求める対応も一様ではありません。

そのため、巨額の和解であっても、「これですべて解決」とは言い切れない面があります。
公式発表の内容だけでなく、地域側の受け止めも含めて見ていく必要があります。

たとえば、ノースカロライナ州のジョシュ・スタイン知事とジェフ・ジャクソン司法長官は、今回の和解について、州の関与がないまま結ばれた合意であり、救済の多くがウェストバージニア州に偏っているとして、批判的な共同声明を出しています。

一方で、ウェストバージニア州側でも、パトリック・モリシー知事が「これは励みになる第一歩だが、より大きな問題の一部に対応したにすぎない」と述べており、関係当事者の間でも受け止めが一様ではないことがうかがえます。

なぜこんなに大きな金額になるのか

日本への示唆

今回の和解は米国の事例ですが、日本企業にとっても無関係ではありません。
日本でも、PFASをめぐる発生源責任の議論は進んでいます。

大阪府摂津市のダイキン工業淀川製作所周辺では、PFOAを中心とするPFAS問題をめぐり、住民らによる公害調停が申請されています。報道では、第1次申請と第2次申請を合わせ、申請人は1,100人を超えたとされています。

日本と米国では、法制度、訴訟文化、行政対応の仕組みが異なります。

そのため、米国の約730億円規模の和解を、そのまま日本に当てはめることはできません。
しかし、企業がPFASをめぐるリスクを考えるうえで、今回の事例から学べることはあります。
それは、PFASが環境部門だけの課題ではなくなってきているということです。

PFASは、法務、財務、設備投資、サプライチェーン、広報、地域対応、取引先説明といった、企業経営全体に関わるリスクになりつつあります。

日本企業が考えるべき3つの視点

日本企業が考えるべき3つの視点今回の事例から、日本企業が考えるべき視点は大きく3つあります。

1. PFASの使用・過去使用を棚卸しする

まず必要なのは、自社や自社製品のどこにPFASが関わる可能性があるのかを把握することです。
対象は、PFASを直接製造している企業だけではありません。
原材料、部材、薬剤、洗浄剤、コーティング、撥水・撥油処理、消火設備、排水処理、外部委託工程など、PFASが関わる可能性のある領域は幅広く存在します。
「現在使っているか」だけでなく、「過去に使っていた可能性があるか」「取引先から求められた場合に説明できるか」も重要です。

2. 測定だけで終わらせない

PFAS対応では、測定は非常に重要です。
しかし、測定はゴールではなく入口です。
検出された場合には、どこから出ているのか、なぜ出ているのか、継続的に出ているのか、過去の使用に由来するのかを整理する必要があります。
測定結果をもとに、排出経路、使用工程、廃棄物管理、排水処理、周辺環境への影響を確認していくことが重要です。

3. 発生源対策を先に考える

PFAS対応では、measure and remove、つまり「測って除く」ことが注目されがちです。
しかし、長期的には、source prevention、つまり「そもそも出さない・使わない・漏らさない」という発生源対策が重要になります。
下流で除去するだけでは、費用も負担も大きくなりやすいからです。

  • 代替できる用途は代替する。
  • 使う場所を減らす。
  • どうしても必要な用途は管理して外に出さない。
  • 排水や廃棄物の経路を把握する。
  • 取引先にも確認できる体制を整える。

こうした上流からの設計が、今後のPFASリスク管理ではますます重要になると考えられます。

まとめ

米ケマーズとの和解案は、PFAS製造企業を相手取った連邦政府初の包括的な合意と位置づけられています。

総額は4億5,000万ドル超、日本円で約730億円規模です。
ただし、その大半は単なる制裁金ではなく、排出抑制、汚染対策、飲料水対応、長期管理に充てられる費用です。

また、今回の和解ではPFAS製造そのものが全面的に止められるわけではなく、重要な商業用途・軍事用途については継続が認められています。その一方で、排出管理と汚染対策については、企業側に大きな負担が求められています。

PFAS問題は、見つかった時点で終わる問題ではありません。
見つかった後に、どこまで調べ、どう説明し、どう止め、どう地域と向き合うかが問われます。

日本企業にとっても、今回の事例は海外ニュースではなく、今後のリスク管理を考えるための重要な参考事例です。

本サイトでは、引き続きPFASに関する国内外の動向を、できるだけ正確に、中立的に整理してお伝えしていきます。

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出典
  • 米司法省(DOJ)プレスリリース「Chemours Agrees to $450M Landmark Settlement Agreement for Releases of PFAS “Forever Chemicals” in West Virginia, North Carolina, and New Jersey」(2026年6月24日)
  • 米環境保護庁(EPA)「EPA Obtains Over $450 Million In Penalties and Relief in Agreement with Chemours to Settle Claims Over PFAS Pollution in Three States」(2026年6月24日)
  • 米環境保護庁(EPA)「Chemours Settlement Summary – June 2026」
  • Reuters「Chemours agrees to $450 million settlement with US Justice Department over chemical release」(2026年6月24日)
  • AP News「US says chemical maker Chemours to pay $450M to settle ‘forever chemicals’ case」(2026年6月25日)
  • 共同通信「PFAS汚染で730億円 米化学大手、政府と和解」(2026年6月25日配信)
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