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2026年4月1日|PFOS・PFOA 水質検査 義務化スタート 省令公布済(2025年6月30日) 務化で何が変わるか →

「規制対象外だから大丈夫」は通用しない?——PFASの”もう一つのリスク”、法的賠償の話

PFASへの対応というと、まず思い浮かぶのは「規制」ではないでしょうか。水道法の水質基準、化審法による製造・輸入の制限、欧州REACH規則——当サイトでも、こうした規制の動向を中心にお伝えしてきました。

しかし、企業にとってのPFASリスクは、規制だけではありません。**規制に違反していなくても発生しうる「法的賠償リスク」**です。

ちょうど本日(2026年7月10日)、米ニューヨーク州が3M・デュポンなどPFAS製造5社を提訴したと報じられました。「PFASが有害だと知りながら販売してきた」として、州全域の浄化費用の拠出を求める内容です。米国では、規制強化に先行して訴訟が企業を動かしてきました。日本でも、この視点の重要性を指摘する専門家がいます。今回は、環境法務を専門とする弁護士の公開論考を参考に、製造業が知っておきたい「もう一つのリスク」を整理します。


1. 米国で起きたこと——規制より先に、訴訟が動いた

米国のPFAS対応を大きく動かした要因の一つは、連邦規制だけではありません。

むしろ、企業に現実的な負担を突きつけたのは、民事訴訟でした。

2023年、3M社は米国の公共水道事業者とのPFAS関連訴訟で、最大103億ドルを13年間で支払う和解に合意しました。これは、PFASが検出された、または将来検出される可能性のある公共水道事業者の対応費用を支援する枠組みです。

また、Chemours、DuPont、Cortevaの3社も、米国の公共水道システムに関するPFAS関連請求を解決するため、総額11億8,500万ドルの和解基金を設けることで合意しています。

ここで重要なのは、これらが単なる「規制違反の罰金」ではないという点です。

問題になったのは、汚染によって生じた検査費用、浄化費用、対応費用などを、誰が負担するのかという民事上の責任です。

つまり、企業にとってPFASリスクは、
「その時点で規制を守っていたか」だけでは終わらない
ということです。

そして、この流れは現在も拡大しています。冒頭で触れたとおり、2026年7月9日(現地時間)には、ニューヨーク州の司法長官が3M、デュポン、ケマーズ、コルテバ、EIDPの5社を提訴し、州全域の浄化活動への資金拠出と、PFASのリスクを適切に知らせるよう命じる裁判所命令を求めました。
被害を受けた住民だけでなく、
行政当局が原告となって企業責任を問う段階に入っているのです。

2. 日本の現在地——水道は基準化、土壌はまだ対象外

日本でもPFAS規制は段階的に進んでいます。

2026年4月1日から、PFOS・PFOAは水道法上の水質基準に位置づけられ、水道事業者等には検査・基準遵守の義務が課されることになりました。基準値は、PFOS・PFOAの合算で50ng/Lです。

一方で、あまり知られていない重要な点があります。

それは、PFASが土壌汚染対策法の「特定有害物質」には指定されていないことです。少なくとも2026年7月時点では、PFOS・PFOAなどのPFASが土壌汚染対策法上の特定有害物質として扱われる仕組みにはなっていません。

つまり、工場跡地の土壌や地下水からPFASが検出されたとしても、土壌汚染対策法に基づく調査・対策義務が当然に発生するわけではありません。

では、土壌のPFASは気にしなくてよいのでしょうか。

答えは、いいえです。

ここに、PFAS対応の難しさがあります。

3. 「規制対象外」でも消えない3つの法的リスク

環境法務の実務では、規制対象外の物質であっても、法的リスクが残ることは以前から指摘されています。

牛島総合法律事務所の猿倉健司弁護士は、月刊環境管理2025年2月号に掲載された「PFAS規制と実務上の論点―含有製品の取扱いと汚染対応―」で、PFASを含有する製品の取扱いや、敷地内・工場排水からPFASが検出された場合の実務対応を論じています。

この視点を踏まえると、製造業が注意すべきリスクは大きく3つあります。

① 民事上の損害賠償リスク

土壌汚染対策法の対象外であっても、民法上の不法行為責任は別に存在します。

たとえば、自社の事業活動に由来するPFASが周辺の井戸水や地下水に広がり、健康被害、営業損害、浄化費用などが発生したと主張された場合、規制対象物質かどうかとは別に、損害賠償を求められる可能性があります。

米国の巨額和解は、まさにこの構造を示しています。

「当時は規制されていなかった」
「基準値がなかった」
「法令違反ではなかった」

これらは重要な事情にはなりますが、それだけで将来の責任が完全に否定されるとは限りません。

② 不動産取引・工場跡地のリスク

次に注意したいのが、不動産取引の場面です。

工場用地を売却した後に、土壌や地下水からPFASが検出された場合、買主から「契約時に想定していた土地の状態と違う」と主張される可能性があります。

2020年施行の改正民法では、従来の「瑕疵担保責任」に代わり、「契約不適合責任」という考え方が導入されています。土地の品質や状態が契約内容に適合していないと判断されれば、代金減額、損害賠償、契約解除などが問題になることがあります。

ここで重要なのは、対象物質が土壌汚染対策法の特定有害物質に指定されているかどうかだけで判断されるわけではない、という点です。

工場の統廃合、事業承継、M&A、遊休地の売却を予定している企業にとって、PFASは将来の取引リスクになりえます。


③ 情報開示・レピュテーションのリスク

PFASへの社会的関心は、確実に高まっています。
仮に法的責任が直ちに認められなかったとしても、汚染の発覚後の説明や対応を誤れば、地域住民、取引先、金融機関、行政との信頼関係に影響する可能性があります。

特に製造業では、サプライチェーンの川下企業から、PFASの使用状況や不使用証明を求められる場面が増えています。

そのため、PFASリスクは単なる「環境部門の問題」ではありません。
法務、品質保証、購買、製造、広報、経営判断が関わる、横断的な経営リスクになりつつあります。

4. 製造業がいまできる備え

では、企業は何から始めればよいのでしょうか。
現時点で考えられる備えは、次の4つです。


① PFAS使用状況の棚卸し

まずは、自社がPFASを使っているかどうかを確認することです。
対象は、最終製品だけではありません。

洗浄剤、表面処理剤、撥水・撥油剤、離型剤、潤滑剤、めっき関連薬剤、泡消火剤など、工程内で使う副資材も含めて確認する必要があります。
SDS、成分表、仕入先への確認、過去の購買履歴を組み合わせて、使用実態を整理しておくことが第一歩です。

② 敷地の使用履歴を整理する

次に、工場や倉庫、保管場所の使用履歴を確認します。
特に注意したいのは、次のような履歴です。

・泡消火剤の使用・保管
・めっき、表面処理、フッ素樹脂加工
・撥水・撥油処理
・工場排水や廃液の一時保管
・過去の埋設、漏えい、事故対応
・旧所有者による使用履歴

現在使っていなくても、過去の使用履歴が将来の論点になることがあります。

③ 土地取引・M&Aでは契約で備える

工場用地の売買、事業承継、M&Aを予定している場合は、PFASを含む環境リスクについて、契約上の扱いを事前に整理しておくことが重要です。
たとえば、次のような論点があります。

・どこまで調査するのか
・検出された場合、誰が費用を負担するのか
・過去汚染と将来汚染をどう分けるのか
・表明保証にPFASを含めるのか
・補償条項を設けるのか
・情報開示の範囲をどうするのか

ここは、環境法務に詳しい弁護士や専門家と早めに相談すべき領域です。

④ 社内の説明ルールを作る

PFASが検出された場合、対応を誤ると、法的リスク以上に信頼の問題が大きくなります。

「誰が確認するのか」
「どの部署が判断するのか」
「取引先にどう説明するのか」
「行政や地域への説明はどうするのか」

こうしたルールを事前に決めておくことで、いざという時の混乱を減らすことができます。

まとめ PFASリスクは「規制への適合」だけでは測れない

PFASのリスクは、「規制対象かどうか」だけでは判断できません。
水道分野では規制が進んでいますが、土壌や不動産取引、過去の使用履歴については、まだ制度の空白や不確実性が残っています。
そして、その空白部分にこそ、民事賠償、不動産取引、情報開示、レピュテーションという形のリスクが潜んでいます。

米国の事例は、その規模を示す先行例です。
日本でも、PFASを「規制されてから対応するもの」と考えるのではなく、将来の負担や説明責任を見据えて、早めに情報を整理しておくことが重要です。

PFASのリスクは「規制への適合」だけでは測れません。規制対象外の領域にこそ、民事賠償・不動産取引・信頼という形のリスクが横たわっています。米国の事例は、その規模を示す先行例であり、本日報じられたニューヨーク州の提訴は、この流れがなお進行中であることを示しています。

なお、本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別案件に関する法的助言ではありません。具体的な土地取引、汚染対応、契約実務については、必ず弁護士等の専門家にご相談ください。

よくある質問

Q1. PFASが土壌汚染対策法の対象外なら、調査しなくてもよいのですか?

法律上、土壌汚染対策法に基づく調査義務が直ちに発生しない場合はあります。

ただし、土地売買、M&A、工場閉鎖、近隣地下水への影響が問題になる場面では、法令上の義務とは別に、調査や説明が必要になることがあります。

「義務がない」と「リスクがない」は同じではありません。

Q2. 規制に違反していなければ、損害賠償責任は発生しませんか?

必ずしもそうとはいえません。

規制違反の有無は重要な判断要素ですが、民事上の損害賠償では、被害の発生、因果関係、予見可能性、注意義務違反などが問題になります。

そのため、当時の規制を守っていたとしても、将来の紛争リスクが完全になくなるわけではありません。

Q3. どのような製造業が注意すべきですか?

特に注意したいのは、次のような工程や履歴を持つ企業です。

・めっき、表面処理
・フッ素樹脂加工
・撥水・撥油処理
・半導体・電子部品関連
・泡消火剤の保管・使用
・洗浄剤や離型剤を多く使う工程
・過去に化学薬品を扱っていた工場跡地

ただし、PFASは用途が広いため、業種名だけで判断せず、SDSや購買履歴を確認することが重要です。

Q4. 工場跡地を売却する予定がある場合、何をしておくべきですか?

まずは、過去の使用履歴、薬剤の使用実態、排水経路、泡消火剤の保管・使用履歴を整理します。

そのうえで、必要に応じて環境調査会社や弁護士に相談し、調査範囲、契約書の特約、情報開示の方法を検討します。

売却直前ではなく、早めに整理しておくことが重要です。

Q5. 取引先から「PFAS不使用証明」を求められた場合、どう対応すればよいですか?

まず、自社で確認できる範囲と、仕入先に確認が必要な範囲を分けます。

そのうえで、SDS、成分表、仕入先回答、社内確認結果をもとに、どこまで確認済みなのかを明確にして回答することが重要です。

「不使用」と断定できない場合は、無理に断定せず、確認範囲を明示した回答にする方が安全です。

Q6. 中小企業でもPFASリスクを気にする必要がありますか?

あります。

PFASリスクは、大企業だけの問題ではありません。

中小企業でも、特定の工程でPFAS含有薬剤を使っていたり、過去に泡消火剤を保管していたり、工場用地を売却する予定があったりする場合には、取引先対応や土地取引で問題になる可能性があります。

まずは、すべてを調査するのではなく、「自社に関係しそうな入口」を確認することから始めるのが現実的です。


参考文献・出典

猿倉健司「PFAS規制と実務上の論点―含有製品の取扱いと汚染対応―」月刊環境管理 2025年2月号(Vol.61 No.2)(日本CSR推進協会「弁護士からみた環境問題の深層」連載)
・3M “3M Settlement with Public Water Suppliers to Address PFAS in Drinking Water Receives Final Court Approval”
・DuPont “Chemours, DuPont, and Corteva Reach Comprehensive PFAS Settlement with U.S. Water Systems”
・環境省「PFASハンドブック」
・環境省「有機フッ素化合物(PFAS)について」
・牛島総合法律事務所「猿倉健司弁護士が執筆した環境法に関する記事が『月刊環境管理』に掲載されました」
・国立国会図書館サーチ「弁護士からみた環境問題の深層 第50回 PFAS規制と実務上の論点」
ニューヨーク州司法長官プレスリリース(2026年7月9日)”Attorney General James Sues Some of Nation’s Largest Chemical Companies Over Toxic Pollution from Consumer Products” https://ag.ny.gov/press-release/2026/attorney-general-james-sues-some-nations-largest-chemical-companies-over-toxic

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