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ケンブリッジ大学の注目研究|腸内細菌はPFAS排出を助けるのか?

PFAS(有機フッ素化合物)は、環境中で分解されにくいことから「永遠の化学物質(Forever Chemicals)」とも呼ばれています。水や食品などを通じて体内に入り、一部のPFASは血液や肝臓などに長くとどまることが知られています。

PFAS対策ではこれまで、活性炭やイオン交換樹脂、逆浸透膜(RO膜)などを用いて、主に「環境中の水からどう取り除くか」が研究・実用化されてきました。
こうした中、2025年7月、英ケンブリッジ大学MRC毒性学ユニットなどの研究チームが、ヒトの腸内にすむ一部の細菌がPFASを細胞内に取り込み、便への排出に関与する可能性を報告しました。

研究成果は、学術誌『Nature Microbiology』に掲載されています。今回の研究は、体内に入ったPFASの動きに腸内細菌が関わっている可能性を、培養実験とマウス実験の両方で示したものです。
本記事では、この研究で何が分かったのか、細菌がPFASを取り込む仕組み、神戸大学が発表した「河川の細菌」の研究との違い、そして実用化に向けた課題まで、一次情報をもとに整理します。

この研究は2025年に発表されたもので、現在も実用化に向けた研究が続いています。

そもそも、なぜPFASは体内に長く残るのか

PFASは、水や油をはじく性質や耐熱性に優れることから、泡消火剤、防水加工製品、食品包装、フッ素樹脂の製造など、さまざまな用途に使われてきました。
一方で、PFASを特徴づける炭素とフッ素の結合は非常に強く、多くのPFASは環境中で分解されにくい性質を持っています。広範囲に使用されてきた結果、水、土壌、食品などを通じて、人や動物が曝露する可能性があります。

体内での動きや排出速度は、PFASの種類によって異なります。
一般に、PFNA、PFOS、PFOAなどの比較的長い炭素鎖を持つPFASは、短鎖PFASより体内に長くとどまりやすいとされています。尿や便から少しずつ排出されますが、排出には長い時間がかかる物質もあります。

現時点では、一般の人が体内のPFAS濃度を安全かつ効率的に下げるための、確立された標準治療はありません。
胆汁酸吸着薬であるコレスチラミンなどにPFAS濃度を下げる可能性が報告されていますが、医薬品であり、消化器症状などの副作用もあり得ます。食物繊維との関連も研究されていますが、まだ十分に確立された方法ではありません。

今回の研究は、こうした「体内に入った後のPFAS」に腸内細菌がどのように関わるのかを調べた点に特徴があります。

PFASは体内にどう入って、なぜ残るのか

ケンブリッジ大学が発見したこと――腸内細菌がPFASを取り込む

ケンブリッジ大学MRC毒性学ユニットのキラン・パティル教授らの研究チームは、ヒトの腸内に存在する細菌がPFASを取り込む能力を持つかどうかを調べました。
研究では、合計89株の微生物についてPFNAの取り込み能力を調べ、そのうち38株が「高蓄積群」に分類されました。
特にPFASを蓄積したのは、次のような腸内細菌です。

  • Bacteroides uniformis
  • Bacteroides thetaiotaomicron
  • Bacteroides dorei
  • Odoribacter splanchnicus
  • Parabacteroides distasonis

など、主にバクテロイデス門に属する細菌でした。
培養実験では、20μMのPFNAに24時間曝露した場合、菌種によって約25~74%が細菌側に取り込まれました。PFOAについても、約23~58%の取り込みが確認されています。
ただし、これらは実験室内で比較的高い濃度のPFASを使用した結果です。そのまま人の腸内で同じ割合が取り込まれることを意味するものではありません。

PFASの取り込みは、数分以内に起きた

研究では、PFASの取り込み速度も調べられました。
高い取り込み能力を示した Bacteroides uniformis では、PFNAの取り込みが、測定可能な最初の時点である3分未満に起きていました。
さらに、7日間の観察期間中、いったん細菌側に取り込まれたPFNAが培養液へ明確に戻る現象は確認されませんでした。

また、水環境で確認されることのある160ng/Lという低濃度のPFNAを使った実験でも、B. uniformis は約37%を細菌の集まりに取り込みました。
このとき細菌側のPFNA濃度は、周囲の液体と比べて約50倍に濃縮されていました。
こうした結果は、腸内細菌が低濃度のPFASにも反応し、細菌内部へ濃縮できる可能性を示しています。

腸内細菌がPFASを取り込む 高蓄積菌の例 PFNAを最大74%取り込み 数分以内に取り込み 低濃度でも濃縮

ポイントは「付着」ではなく、細胞内への取り込み

これまで、細菌とPFASの関係については、PFASが細菌の表面や細胞膜に付着している可能性が主に考えられてきました。

今回、研究チームは、細胞を低温で固定して内部の化学物質を可視化する「クライオFIB-SIMS」などの分析手法を用いました。
その結果、PFNA由来のフッ素が細菌の内部で検出され、PFASが細胞内に取り込まれていることが確認されました。取り込まれたPFASは、細胞内で密な塊のような構造を形成していました。

ただし、細菌がPFASを化学的に分解して無害化したわけではありません。
今回示されたのは、細菌がPFASを、

細胞内に取り込み、集めて保持する

という「生物蓄積」の仕組みです。
細菌が増殖したり便とともに排出されたりすることで、結果的にPFASの便中排出を助ける可能性があります。

細菌の表面ではなく、内部に取り込む

腸内細菌を持つマウスでは、PFNAの便中濃度が上昇

研究チームは、培養実験だけでなく、マウスを使った実験も行いました。
ヒト由来の腸内細菌20株を定着させたマウスと、腸内細菌を持たない無菌マウスに、PFNAを一度経口投与して比較しました。
その結果、腸内細菌を持つマウスでは、投与3時間後の便中PFNA濃度が、無菌マウスと比べて約7.9倍高くなりました。その後も、1~3日後まで便や消化管内のPFNA濃度が有意に高い状態が確認されました。

さらに、PFNAを多く蓄積する細菌群を定着させたマウスでは、蓄積能力が低い細菌群を持つマウスより、便へのPFNA排出量が多くなりました。

これらの結果は、腸内細菌によるPFASの取り込みが、動物の体内でも便への排出に影響する可能性を示しています。
一方、この実験で使用されたのはPFNAの一回投与です。多くの人が実際に受けている「低濃度で長期間の曝露」とは条件が異なります。研究チームも、長期間にわたるヒトでの調査が必要だとしています。

マウスでは便中排出が増えた

神戸大学の「河川の細菌」の研究とは何が違うのか

PFAS Solutions+では、神戸大学が発表した「河川の細菌によるPFAS低減」の研究も紹介しています。
両者はどちらも細菌の力を利用する研究ですが、対象、仕組み、目的が異なります。

観点 神戸大学の研究 ケンブリッジ大学の研究
対象 汚染河川や処分場浸出水 腸内・消化管
細菌 河川などから分離した環境細菌 ヒトの腸内細菌
主な仕組み 細菌表面や細胞外高分子への吸着、一部の分解 細菌内部への取り込み・蓄積
目的 水中のPFAS濃度を低減する PFASの便中排出を助ける可能性
現在の段階 基礎・応用研究段階 培養実験・マウス実験段階

神戸大学の研究は「環境中のPFASを、水から減らす」方向です。
一方、ケンブリッジ大学の研究は「体内に入ったPFASの排出に、腸内細菌がどう関わるか」を調べています。
両者は競合する技術ではありません。

環境に入る前や水中で捕まえる
体内に入った後の排出を助ける

という、異なる段階からPFAS問題に向き合う研究です。

神戸大学の研究との違い・今後の課題

実用化に向けて残る課題

今回の研究は非常に興味深いものですが、現時点で「腸内細菌を増やせば、人の体内のPFASを減らせる」と結論づけることはできません。

ヒトでの有効性はまだ確認されていない

論文で確認されているのは、試験管内の培養実験とマウス実験です。ヒトを対象に、腸内細菌を摂取した前後で血液中のPFAS濃度が下がるかどうかを調べた臨床試験結果は、まだ公表されていません。

主に調べられたのはPFNA

マウス実験で主に調べられたPFASはPFNAです。PFOS、PFOA、PFHxSなど、ほかのPFASでも同様に便中排出が増えるかは、別途検証する必要があります。

腸内細菌には個人差がある

PFASを多く蓄積する細菌は、多くの人の腸内に存在する可能性がありますが、その量や腸内細菌全体の構成には大きな個人差があります。同じ細菌を摂取しても、すべての人に同じ効果が出るとは限りません。

PFASを分解しているわけではない

この方法はPFASを無害な物質に変えるのではなく、体内から便へ移動させる考え方です。排出されたPFASは下水や廃棄物処理の系統へ移るため、最終的には環境側での回収・処理も必要になります。

安全性と腸内環境への影響

候補となる菌株を継続的に摂取した場合の安全性、腸内細菌全体への影響、医薬品や抗菌薬との相互作用なども確認する必要があります。


サプリメントの開発は進んでいるが、効果は未確定

この研究をもとに、ケンブリッジ大学発のスタートアップ「Cambiotics」が、PFASの自然排出を支援することを目的としたプロバイオティクス製品を開発しています。
同社は2026年中の製品提供と、ヒトを対象とした臨床試験の実施を計画していると説明しています。

ただし、これは開発企業による計画です。
2026年7月時点で、ヒトにおけるPFAS低減効果を示す査読済み臨床試験結果が公表されたことを意味するものではありません。

また、同社が検討している菌株の一部は、欧州の食品安全上の認可や米国のGRAS認定など、販売に必要な規制手続きが進行中とされています。
製品の有効性、安全性、適切な摂取量については、今後の臨床試験と第三者による評価を待つ必要があります。


まず優先すべきなのは、PFASへの曝露を減らすこと

腸内細菌を活用した方法が将来実用化されたとしても、PFASへの曝露そのものを防ぐ対策に代わるものではありません。
現時点で個人ができる現実的な対応は、

  • 自治体や水道事業者が公表する水質検査結果を確認する
  • 飲料水が主な曝露源と考えられる場合は、PFAS除去性能が確認された浄水方法を検討する
  • 根拠が確立していないサプリメントや極端なデトックス法に頼らない
  • 検査や治療については医療機関に相談する

といった、曝露源を減らす行動です。
腸内細菌の研究は「体内に入ったPFASへの新しいアプローチ」ですが、PFAS問題全体を解決するものではありません。

まとめ

ケンブリッジ大学の研究によって、ヒトの腸内にすむ一部の細菌がPFASを細胞内に取り込み、マウスではPFNAの便中排出を増やす可能性が示されました。
研究の重要なポイントは、細菌がPFASを分解したのではなく、

細胞内に取り込み、便とともに体外へ運ぶ可能性

が示されたことです。

一方で、確認されているのは主に培養実験とマウス実験であり、ヒトにおける有効性や安全性はまだ明らかになっていません。
神戸大学の「河川の細菌」が環境中のPFAS低減を目指すのに対し、今回の研究は体内でのPFAS排出に注目しています。

PFAS対策における「生き物の力」の研究が、環境側と人体側の両方から進み始めたことは注目すべき動きです。ただし、期待と研究事実を区別し、臨床試験など今後の検証を冷静に見守る必要があります。
PFAS Solutions+では、今後も論文、大学、行政機関などの一次情報をもとに、PFASに関する研究と実用化の動向を継続して紹介します。

よくある質問(FAQ)

腸内細菌を増やせば、体内のPFASを減らせるのですか?

現時点では分かっていません。
PFASを多く取り込む腸内細菌が見つかり、マウスではPFNAの便中排出が増えましたが、ヒトで同じ効果が得られることはまだ確認されていません。
市販の乳酸菌やビフィズス菌を摂取すればPFASが減る、という研究でもありません。一般的なプロバイオティクス菌は、今回の試験ではPFAS蓄積能力が低いか、ほとんど示さなかったと開発企業は説明しています。

この研究で細菌はPFASを分解したのですか?

いいえ。
今回確認されたのは、細菌がPFASを細胞内に取り込み、密な塊として蓄積する現象です。
PFASそのものを化学的に壊して無害化したわけではありません。

「最大74%」という数字は、人にも当てはまりますか?

当てはまりません。
最大74%は、特定の菌株を20μMのPFNAに24時間曝露した培養実験で得られた値です。
人の腸内で同じ割合のPFASが取り込まれることを示すものではありません。

「約8倍排出された」というのは本当ですか?

マウス実験では、ヒト由来腸内細菌を持つマウスの便中PFNA濃度が、投与3時間後に無菌マウスの約7.9倍となりました。
ただし、その差は時間によって変化し、実験はPFNAの一回投与で行われています。ヒトが日常的に受ける低濃度・長期間の曝露とは条件が異なります。

市販のサプリメントでPFAS対策はできますか?

現時点で、ヒトの血液中PFAS濃度を確実に下げる効果が確認された一般向けプロバイオティクス製品はありません。
開発中の製品についても、臨床試験による有効性と安全性の確認が必要です。

神戸大学の研究とは何が違うのですか?

神戸大学の研究は、河川など環境中の水からPFASを減らすことを目指しています。
ケンブリッジ大学の研究は、ヒトの腸内細菌がPFASを取り込み、便への排出に関与する可能性を調べたものです。
どちらも細菌の力を利用しますが、対象と目的が異なります。

出典

  • Lindell, A. E. et al. “Human gut bacteria bioaccumulate per- and polyfluoroalkyl substances.” Nature Microbiology, 10, 1630–1647(2025年7月1日公開)
  • University of Cambridge/MRC Toxicology Unit 関連情報
  • Cambiotics公式情報(製品開発・臨床試験計画)
  • 環境省「有機フッ素化合物(PFAS)について」

※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の診

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