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PFAS測定に「AI・デジタル標準」の波|トヨタWAVEBASE協業が示す「測る」から「判断する」への転換

2026.06.19

PFAS対策の世界に、「AI」と「デジタル標準」という新しいキーワードが入ってきました。

2026年6月18日、PFAS対策技術コンソーシアム(代表:国立研究開発法人産業技術総合研究所 山下信義上級主任研究員、事務局:株式会社キャンパスクリエイト)とトヨタ自動車株式会社は、PFAS測定技術のデジタル標準(DX)確立に向けた協業プロジェクトを開始すると発表しました。使われるのは、トヨタが開発したクラウド型データ解析基盤「WAVEBASE」です。

PFAS対策技術コンソーシアムは、2021年に産総研を中心に設立された、国内のPFAS対策(計測・処理)技術の普及を目的とする産学官連携組織です。ISO21675などPFAS分析の国際標準化にも深く関わってきた組織であり、その意味で今回の協業は「分析の本流」と「AI・データ解析」が正面から手を組んだ動きといえます。

「なぜ自動車メーカーがPFAS測定を?」と思われるかもしれません。

しかし、この協業は、自動車部品のPFASを調べるという話ではありません。トヨタが材料開発の分野で培ってきたAI・データ解析技術を、PFAS測定という社会課題に応用しようとする取り組みです。

本記事では、この協業が何を目指しているのか。そして、PFAS分析における「測る」から「判断する」への転換とは何を意味するのかを、わかりやすく整理します。

この記事のポイント

  • PFAS対策技術コンソーシアムとトヨタ自動車が、PFAS測定技術のデジタル標準(DX)確立に向けた協業プロジェクトを開始しました。
  • 活用されるのは、トヨタが開発したクラウド型データ解析基盤「WAVEBASE」です。
  • 自動車部品そのものの話ではなく、AI・機械学習によるデータ解析技術をPFAS分析に応用する取り組みです。
  • 狙いは、AI、オープンデータベース、国際標準分析法ISO21675などを組み合わせ、未知のPFASの把握・特定を支援することです。
  • 従来の「決められた物質を測る」分析から、「より包括的に実態を捉え、判断を支援する」方向への転換を後押しする動きといえます。

そもそも、PFAS測定には「壁」がある

この協業の意味を理解するには、まずPFAS測定が抱える難しさを知る必要があります。

PFASは、ひとつの物質名ではありません。PFOS、PFOA、PFHxS、PFNA、TFAなどを含む、大きな物質群です。OECDの定義に基づく考え方では、原則として、少なくとも1つの完全フッ素化メチル基またはメチレン基を含む化合物がPFASに含まれます(一部の例外規定があります)。PubChemベースでは、PFASに該当し得る物質が700万を超える規模で整理されているとの報告もあります。

一方で、実際の検査で測れるPFASは、そのうちのごく一部です。
現在の一般的なPFAS分析は、「PFOSを測る」「PFOAを測る」というように、あらかじめ決めた物質を狙って測る方式が中心です。これは「ターゲット分析」と呼ばれます。
ターゲット分析は、対象物質が決まっている場合には非常に重要です。濃度を正確に測り、基準値や目標値と比較するうえで欠かせません。

ただし、裏を返せば「測ろうと決めた物質しか見えにくい」という限界もあります。

これに対し、あらかじめ対象物質を決めずに、試料の中に何が含まれているかを幅広く探索する「ノンターゲット分析」という手法の研究も進んでいます。ただし、ノンターゲット分析は得られるデータが膨大かつ複雑で、その解釈には高度な専門知識が必要です。ここが、AIやデータ解析技術の出番になります。
たとえば、TFA(トリフルオロ酢酸)のような超短鎖PFASや、まだ十分に整理されていない未知のPFASは、従来の測定の網の目からこぼれ落ちる可能性があります。

「測れないものは、管理しにくい」。

これが、PFAS対策の根っこにある大きな壁です。

PFAS測定の壁「測れる物質は一部」

WAVEBASEとは何か

ここで登場するのが、トヨタの「WAVEBASE」です。
WAVEBASEは、トヨタ自動車が開発したクラウド型のデータ解析基盤です。材料開発や分析分野におけるデータ活用を支える、マテリアルズ・インフォマティクス(MI)のプラットフォームと説明されています。

マテリアルズ・インフォマティクスとは、簡単にいえば「材料開発にAIやデータ科学を使う」分野です。
実験データや計測データを整理し、特徴を抽出し、統計モデルを作り、結果を可視化する。さらに、次の実験条件の提案まで支援する。こうした一連のデータ活用を支える仕組みが、WAVEBASEです。

今回の協業では、このWAVEBASEをPFAS分析に応用します。
PFASの分析データを構造化し、共有し、高度に解析することで、分析プロセスの効率化や、分析結果に基づく判断支援につなげようという取り組みです。

つまり、これは「トヨタがPFAS製品を出す」という話ではありません。
トヨタが持つ「AIでデータを読み解く技術」を、PFAS測定という別の課題に転用する動きです。

発表によれば、このプロジェクトで進められるのは、特徴量解析とPFAS分析に特化した機械学習アプリケーションの開発と、実務に基づく事例づくりです。特定の業種だけでなく、さまざまな業種で使える「PFAS測定データ解析の共通基盤」を目指すとされています。

WAVEBASEには、少ないデータからでも有効な知見を引き出せること、データサイエンスの専門知識がなくても直感的に使えることといった特徴があるとされています。これまで担当者の経験に頼りがちだった解析業務を、標準化し、再現性のある形にしていく。それがこの基盤の役割です。
WAVEBASEとは何か

「測る」から「判断する」への転換

この協業で注目したい言葉が、「測る」から「判断する」までを支える、という表現です。
これは、PFAS対策の考え方が変わりつつあることを示しています。

これまでの分析は、「この物質が何ng/L含まれていた」という数値を出すところに重点がありました。もちろん、それは今後も必要です。PFOS・PFOAのように規制や基準と結びつく物質では、濃度を正確に測ることが欠かせません。

しかし、PFAS問題では、それだけでは足りません。
数値が出ても、

  • その結果が何を意味するのか
  • どのPFASに注目すべきなのか
  • 未知のPFASが隠れていないか
  • 製品や工程のどこに管理上の優先順位があるのか

を判断する必要があります。

この「判断」の部分は、専門家の経験に頼る面が大きい領域でした。
AIとデジタル標準を使えば、この判断を支援できる可能性があります。たとえば、分析データのパターンから未知のPFASの存在を示唆したり、膨大なデータの中から注目すべき異常を見つけたりすることが期待されます。

大切なのは、AIが専門家を置き換えるという話ではないことです。
PFAS分析では、試料採取、前処理、測定条件、標準物質、装置の特性、データ解釈など、専門的な判断が必要です。AIはそれを置き換えるものではなく、専門家の判断を支える道具として位置づけるのが現実的です。

「測る」から「判断する」への流れ

AI・オープンデータベース・ISO21675を組み合わせる意味

今回の発表では、AI、オープンデータベース、国際標準分析法ISO21675を高度に融合することで、製品や環境試料中の未知のPFASの把握・特定を支援する技術開発が進んでいる、と説明されています。

ISO21675は、水中のPFASを測定するための国際標準分析法です。従来のターゲット分析を支える重要な基盤です。

一方で、未知のPFASや、広範囲のPFASを把握しようとすると、単に「対象物質リストを増やす」だけでは限界があります。
そこで、測定データをより大きなデータとして扱い、AIやオープンデータベースと組み合わせる発想が重要になります。

これは、PFAS対策が「個別物質のリストを追いかける」段階から、「実態を包括的に捉える」段階へ進みつつあることを示しています。

企業の「自主管理」を支える基盤へ

もうひとつ注目したいのが、この技術が企業の自主管理を支える基盤として想定されている点です。
PFAS規制は、今後も対象物質や管理対象が広がっていく可能性があります。企業にとっては、「規制対象になった物質だけ対応する」という姿勢では、後手に回るリスクがあります。

特に製造業では、自社が意図してPFASを使っていなくても、原材料、副資材、表面処理、包装材、洗浄工程、外部委託工程などを通じて、PFASが関係している可能性があります。

しかし、PFASを個別にすべて測ることは現実的ではありません。
だからこそ、AIとデジタル標準によって、分析データを整理し、比較し、判断につなげる基盤が重要になります。

「規制されたから測る」だけでなく、「将来のリスクを先回りして把握する」。

今回の協業は、そうした自主管理の時代に向けた技術基盤づくりと見ることができます。

企業の自主管理にどうつながるか

大切な注意点

ここで、いくつか注意点も整理しておきます。

第一に、本記事は特定の企業・技術・製品を推奨するものではありません。PFAS測定をめぐる技術動向を解説するものです。
第二に、この協業は開始が発表された段階のプロジェクトです。ここで述べた効果は、現時点では「期待される方向性」であり、すでに確立された成果として断定するものではありません。
第三に、AIによる分析支援は、従来の分析を置き換えるものではありません。ISO21675などの標準分析法、適切な試料採取、分析機関の品質管理、専門家による解釈が基盤にある点は変わりません。

AIは、PFAS分析を魔法のように簡単にするものではありません。

しかし、これまで人の経験や個別のノウハウに依存していた部分を、より再現性のある形で支援する可能性があります。なお、本記事における「PFAS」は有機フッ素化合物の一群を指すものであり、「フッ素」そのもの(フッ素元素・フッ化物イオンなど)とは異なります。フッ素を含む物質のすべてがPFASではない点にご注意ください。

pfasreach.jpの視点

今回の協業が示しているのは、PFAS対策の焦点が「規制されたものを測る」段階から、「実態を包括的に捉える」段階へ移りつつある、ということです。
当サイトでは、PFAS対策を大きく「測る → 除く → 分解する → 置き換える」という流れで捉えてきました。

その最初にある「測る」が変われば、その後の管理も変わります。
何を測れるかが、何を管理できるかを決めるからです。

今回のWAVEBASE協業は、PFAS測定をAIとデジタル標準で底上げしようとする動きです。これは一見すると専門的で地味なニュースに見えるかもしれません。しかし、PFAS対策全体の土台を動かす可能性があります。

PFAS問題では、PFOS・PFOAだけを見ていれば十分、という時代ではなくなりつつあります。TFAのような超短鎖PFAS、未知のPFAS、製品中の意図しない含有、工程由来の環境負荷など、見なければならない範囲は広がっています。

だからこそ、これからのPFAS対策では、「測定値を出す」だけでなく、「その結果をどう判断し、どう管理につなげるか」が重要になります。

pfasreach.jpでは、この「測る」の進化を、引き続き追いかけていきます。
自社製品や工程のPFAS把握を、何から始めればよいか迷われている企業の方は、お気軽にご相談ください。

出典・参考情報

  • PFAS対策技術コンソーシアム(代表:産業技術総合研究所 山下信義上級主任研究員、事務局:株式会社キャンパスクリエイト)はトヨタ自動車株式会社とPFAS測定技術のデジタル標準(DX)確立に向けた協業プロジェクトを開始します」(2026年6月18日)
  • PFAS対策技術コンソーシアム「CAR-PFAS Japan」関連情報
  • OECD「Reconciling Terminology of the Universe of Per- and Polyfluoroalkyl Substances」
  • Schymanski et al. “Per- and Polyfluoroalkyl Substances (PFAS) in PubChem: 7 Million and Growing”
  • ISO 21675:2019 Water quality — Determination of selected perfluoroalkyl and polyfluoroalkyl substances in water
  • Jiao et al., Nature Communications/Yu et al., Nature Machine Intelligence (2025)(プレスリリースにて背景研究として言及)
  • 産経新聞「未知のPFAS検知も AI利用の分析システム、トヨタが社会実装に向け新プロジェクト」(2026年6月18日)
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