水道法PFAS義務化と神戸・明石川の現状【2026年最新】
【独自】水道法PFAS規制、今月から「法的義務」に格上げ
──しかし神戸・明石川では産廃由来の汚染が今も継続。
住民血中濃度は多摩地区並み、2025年も新たな井戸2カ所で基準超え
2026年4月1日、PFOSとPFOAが水道法の「水質基準項目」に正式追加され、全国の水道事業者に3カ月ごとの定期検査と超過時の改善措置が法的に義務付けられた。しかし神戸市西区・明石川流域では、産業廃棄物最終処分場に起因するとみられる汚染が現在進行形で続いており、2025年には新たに明石市内の井戸2カ所から基準値超えが検出。住民血中濃度は全国有数の高水準にあり、「飲み水は安全」という行政の説明と市民の不安の乖離は埋まっていない。法改正が「問題の終わり」ではなく「新たなスタートライン」であることを、現地の実態データと最新の行政動向から多角的に整理した。
「永遠の化学物質」と呼ばれるPFASをめぐり、日本の水行政がひとつの転換点を迎えた。しかしその一歩が遅すぎたと感じている住民は、明石川流域に確かに存在する。2026年4月1日に施行された水道法改正は、検査の「努力義務」を「法的義務」に格上げした点で確かに前進だ。だが基準値の数値は変わらず、産廃処分場からの排出規制は依然として法の空白に置かれ、汚染の大本を断ち切る手段はまだ整っていない。法改正の意義と限界、そして今もデータが示す現実を、時系列と数字で追う。


「努力義務」から「法的義務」へ──12年ぶり、何が変わったのか」
今回の水道法改正は、2014年に亜硝酸態窒素が追加されて以来12年ぶりとなる水質基準項目への追加だ。環境省は2025年6月30日に関連省令を公布し、2026年4月1日に施行した。水質基準値の数値自体はこれまでの暫定目標値と同じ50 ng/L(PFOS+PFOA合算)だが、その性格は根本的に変わった。
改正前の「暫定目標値」のもとでは、検査も改善も事業者の努力義務に過ぎず、環境省と国土交通省の調査では「義務でないことを理由に検査を実施していない事業者」も存在していた。今後は基準値を超えた場合の改善措置が法的に求められるため、放置することはできない。専用水道・簡易水道も対象に含まれ、飲用井戸等についても定期水質検査項目にPFOS・PFOAが追加された。
「暫定目標値」として50 ng/Lを設定。検査は努力義務。超過しても改善義務なし。検査未実施の事業者が存在。法的根拠がないため行政も強制できず。
「水質基準」に格上げ。3カ月に1回の定期検査が義務。基準超過時は改善措置が法的に求められる。専用水道・簡易水道・飲用井戸も対象範囲に含まれる。
ただし基準値の数値(50 ng/L)は変わっていない。米国EPAが2024年に策定した基準はPFOAで4 ng/L以下、PFOSでも4 ng/L以下と、日本の基準値の12倍以上厳しい。EUも2026年から20種のPFAS合計値で規制する包括的な基準を導入しており、日本の水準は依然として国際的な最前線とは大きな開きがある。市民団体や専門家からは、基準値そのものの引き下げを求める声が続いている。
産廃処分場が「本命の汚染源」──神戸市西区で今も高濃度が継続
明石川流域のPFAS汚染問題において、最も深刻なのが神戸市西区の産業廃棄物最終処分場との関係だ。丸尾牧・兵庫県議が2023年10月に明石川とその支流25カ所で実施した独自調査では、神戸市西区押部谷高和で明石川に流れ込む2本の水路から、それぞれ210 ng/Lと10万 ng/L(国の指針値の2,000倍)という異常値が検出された。この水路沿いには神戸市西区内に3カ所ある産廃最終処分場のうち2カ所が位置している。
京都大学の小泉昭夫名誉教授(環境衛生学)は「産業廃棄物として処理された化学物質が漏えいしている可能性が疑われる」と指摘。処分場の一つを運営する会社の施設管理担当者は「3年前から排水のPFOA・PFOS分析を始め、活性炭の交換頻度を月1回に増やしたが、日によって濃度が暫定基準を超えることもあり、原因の究明には至っていない」と話す。
さらに遡ると、神戸市が2021年に実施していた非公表の調査では、同市押部谷町の明石川合流水路付近で33,000 ng/L(目標値の660倍)が検出されていたことが、情報公開請求により判明している。また神戸市が公表している2024年2月の調査では、西区平野町の地点で1,300 ng/Lという高い数値が出ている。
2025年も止まらない汚染──明石市内で新たに井戸2カ所が基準値超え
水道法改正に向けた議論が進んでいた2025年にも、明石市内での新たな汚染発覚は続いた。明石市が2025年6月上旬に市内5カ所の個人所有の井戸を対象に実施した地下水調査で、魚住町中尾の井戸から56 ng/L、二見町東二見の井戸から87 ng/Lと、いずれも国の指針値(50 ng/L)を超えるPFASが検出された。市はこれらの井戸所有者に対して地下水の飲用を控えるよう助言し、周辺の追加調査を決定した。その後2025年10月に実施した追跡調査でも、同じ2カ所で再度、指針値超えを確認。半年を経ても汚染が改善していないことが判明した。
明石市は2026年度(令和8年度)にはこの2カ所について年2回の調査を実施する予定としているが、汚染源の特定には至っていない。


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2019年度
環境省の全国環境水調査で明石川のPFOS+PFOA合計が105〜145 ng/Lと全国有数の高水準を記録。明石市は翌2020年度から浄水場活性炭の交換を年4回→年1回に増やすが、市民への公表は限定的だった。 -
2021年12月
神戸市が明石川合流水路で33,000 ng/L(目標値660倍)を検出。しかし市民に公表せず。情報公開請求によって後に発覚。 -
2022年12月
厚生労働省の試買検査で神戸市内製造のミネラルウォーターからPFAS基準超えを検出。神戸市へ通知されるが市民には非公表のまま約1年半放置。 -
2023年10月
丸尾牧・兵庫県議の独自調査で押部谷高和の水路から10万 ng/L(指針値2,000倍)を検出。明石川流域25カ所中13カ所で指針値超えを確認。 -
2024年7月
情報公開請求をきっかけに各紙が一斉報道。ミネラルウォーターPFAS問題と明石川汚染が初めて広く知られる。同時期、明石川上流では目標値の92倍のPFASも検出。 -
2024年9月
「明石川流域のPFAS汚染を考える会」が明石市民33人の血液検査結果を公表。4PFAS合計の平均値22.9 ng/mL、約半数(16人)が米国要注意ライン(20 ng/mL)超え。 -
2025年2月
神戸市・明石市が共同で環境大臣に要望書提出。規制基準の早期設定、汚染源調査への財政支援、住民健康調査の実施を要求。同月、神戸市情報公開審査会が「ミネラルウォーター事業者名・商品名は公表すべき」と答申。 -
2025年6月
明石市が地下水調査で魚住町・二見町の井戸2カ所から56・87 ng/Lを検出。10月の追跡調査でも再度超過を確認。 -
2026年4月
水道法改正施行。PFOSとPFOAが水質基準に格上げ、3カ月ごとの定期検査と基準超過時の改善が法的義務化。明石市は阪神水道企業団からの受水に切り替えて明石川取水を大幅削減(2028年度に完全廃止予定)。
血液から見える「過去の蓄積」──住民への健康影響はどこまで
水道水が「目標値以下」であっても、住民の血中PFAS濃度が高い──この矛盾が明石川問題の核心のひとつだ。丸尾県議が2023年に実施した第1回血液検査では、明石市民9人の4PFAS合計平均値が26 ng/mLと、多摩地区住民の平均(3.8 ng/mL)を大幅に上回り、米国のがん検査推奨ライン(20 ng/mL)を超えた人が3人いた。翌2024年9月に「明石川流域のPFAS汚染を考える会」が実施した拡大調査(33人)では平均が22.9 ng/mLとなり、16人(約48%)が20 ng/mLを超えた。
小泉名誉教授は「水道水を飲み水にしている人、明石川の水が水道水に含まれる割合が多い人ほど血中PFAS濃度が高い傾向がある」と分析しており、過去数十年にわたる継続的な摂取による蓄積が示唆されている。PFASは体内から自然には排出されにくく、血中に長期間残留するため、「今日から安全な水を飲んでも過去の蓄積は消えない」という厳しい現実が住民の不安を長引かせている。
| 比較対象 | 4PFAS合計(平均) | 米要注意ライン超過 |
| 明石市民33人(2024年9月) | 22.9 ng/mL | 16人 / 33人(48%) |
| 明石市民9人・第1回(2023年) | 26 ng/mL | 3人 / 9人(33%) |
| 東京・多摩地区住民(参考) | 3.8 ng/mL | — |
| 米国要注意ライン | 20 ng/mL以上 | がん検査推奨・曝露低減推奨 |
「水だけ」ではない──農産物・魚介類への拡大リスク
丸尾県議は「明石市は水道水のPFAS濃度を低減させたが、河川の汚染は農産物や海産物に影響する。河川の汚染をなくす包括的な取り組みが求められる」と指摘している。市民団体からも明石川周辺の野菜や魚のPFAS汚染調査を求める声が上がっている。
農林水産省が2024年度に実施した国産農畜水産物14品目の含有実態調査では、水産物5品目(マイワシ・マダラ・カツオ・アユ・アサリ)からはPFASがいずれか検出され、品目によって濃度に大きな幅がみられた。一般的な食生活における摂取量は現時点ではTDI(耐容一日摂取量)を大幅に下回るとされているが、兵庫県も「土壌や農作物に関するPFASの指針値等は現在定められていない」と認めており、汚染河川周辺の農産物への影響評価は今後の課題として残っている。
「六甲のおいしい水」をはじめ主要ミネラルウォーターの現状
神戸市内製造のミネラルウォーターPFAS問題の報道以降、「六甲」の名のつく製品への不安が広がったが、製品ごとに状況は異なる。今回の水道法改正と並行して、殺菌・除菌を行うミネラルウォーター類にも食品衛生法上の成分規格としてPFOS+PFOA合算50 ng/Lの基準値が設定された。水道水と同様、ミネラルウォーターも「法的に管理される時代」に入った。
| 製品・事業者 | PFAS対応状況 | 判定 |
| アサヒ おいしい水 六甲(アサヒ飲料) | 外部機関による定期検査実施。自主基準は国基準値の1/10以下。採水地は神戸市西区井吹台。 | 安全確認済み |
| 六甲の天然水マロッ(サン神戸ウォーターサプライ) | 問題発覚後に第三者機関検査を実施し基準値内を公表。現在も継続検査中。 | 基準値内確認済み |
| 問題のミネラルウォーター(神戸市内製造・事業者名非公表) | 2023年に活性炭フィルター設置後は目標値以下に改善。現在は廃業・販売終了。 | 販売終了 |
| 神戸市水道水 | 四半期ごとに検査実施。2025年度最新結果まで一貫して基準値以下。 | 基準値以下継続 |
明石市の「出口戦略」──2028年に明石川取水を完全廃止
明石市は根本解決策として、明石川からの取水そのものを段階的に廃止する方針を公式に表明した。2025年度(令和7年度)から阪神水道企業団からの受水に切り替えて河川水の取水を大幅に削減し、2028年度(令和10年度)中には明石川からの取水を完全に廃止する計画だ。これにより水道水へのPFAS混入リスクは将来的に排除される見通しだが、課題は残る。
まず、取水廃止後も明石川そのものの汚染が続く限り、農業用水・川魚・周辺生態系への影響は続く。加えて、地下水を通じた汚染の広がりは取水源の変更だけでは防げない。2025年に明石市内の井戸2カ所で検出された基準値超えは、まさにこの点を示している。「蛇口の先を変える」だけでなく、「川の上流の汚染源を断つ」ことが、抜本的な解決に不可欠だ。
今後の最大の焦点──産廃排水規制と基準値引き下げ
神戸市の担当者は産廃処分場問題について「法的規制はないため、高い数値が出た場合は発生源と考えられる事業者に自主的な対応を依頼することになる」と説明している。この「お願いベース」の限界が、10万 ng/Lという異常値を出し続けながら抜本的な対処ができない構造的原因だ。神戸市と明石市は2025年2月、国に対して「排水規制の整備」と「汚染源調査への財政支援」を要望したが、具体的な法整備の動きはまだ見えていない。
加えて、今回法的基準となった50 ng/Lという数値への疑問も残る。米国基準(4 ng/L)の12倍以上である現行値について、食品安全委員会は「一生涯毎日2リットル飲み続けても健康に悪影響が生じない水準」としているが、明石市民の血中濃度データが示す現実との乖離を、専門家たちは深刻に受け止めている。水道水の基準値クリアと住民の高い血中濃度が「同時に真実」である限り、「飲み水は安全」という言葉だけでは住民の不安を拭えないだろう。
まとめ:この問題で注目すべき5つの焦点
- 水道法改正は前進だが、産廃処分場への排水規制は依然として法の空白に置かれており汚染源を断つ手段がない
- 基準値50 ng/Lは米国基準の12倍超。基準値そのものの引き下げ議論が次のステップ
- 2025年も明石市内の井戸2カ所で基準値超えを確認。地下水汚染は拡散中の可能性
- 農産物・水産物への影響評価は指針値も調査体制も不整備のまま継続中
- 住民血中濃度は「過去の長期曝露による蓄積」を示しており、水道水が改善されても蓄積は消えない
出典:環境省「水質基準に関する省令の一部改正」公布(2025年6月30日)、日本経済新聞・共同通信(2025年2月)、明石市公式PFASページ(2026年2月更新)、神戸市PFAS対応ページ(2025年度)、神戸新聞(2024年5月・7月・9月・2025年12月)、Yahoo!ニュース エキスパート・幸田泉記者(2026年2月)、農林水産省「令和6年度国産農畜水産物PFAS含有実態調査」(2025年8月)、兵庫県「有機フッ素化合物について」(2025年7月)、神戸市情報公開審査会答申第238号(2025年2月)。本記事は公開情報をもとにPFAS Solution+ (旧PFAS研究所)が独自に整理・編集したものです。内容は取材時点の情報に基づきます。<神戸・明石取材班 2026年4月15日>









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