自動車とPFAS|フッ素ゴム・フッ素樹脂とサプライチェーンへの影響【業界別シリーズ】
PFAS(有機フッ素化合物)は、半導体やめっきだけでなく、自動車産業の足元にも広く関わっています。
むしろ、影響範囲の大きさという点では最重要の分野の一つです。この記事では、自動車とPFASの関わり、欧州規制の動向、そして日本のサプライチェーンが取るべき視点を中立に整理します。
自動車に使われるPFAS
自動車には、フッ素ゴム(FKM/フルオロエラストマー)やフッ素樹脂(PTFEなど)が広く使われています。
- 燃料系・エンジンまわり: 燃料ライン、燃料ホース、ターボチャージャーホース、油圧システムのホース、ガスケット、シール、Oリングなど。高温・燃料・薬品に耐え、漏れや故障を防ぐ役割を担います。
- 配管・コーティング: 耐熱・耐薬品が求められる部位に、フッ素樹脂が使われます。
- EV特有の用途: リチウムイオン電池の材料に加え、電池を冷やす熱マネジメント分野でもフッ素系材料が利用されています。また、空調分野で使われるHFO系冷媒の一部は、分解生成物であるTFAとの関係からPFAS議論の対象となっています。
つまり、エンジン車もEVも、PFASと無縁ではないということです。
欧州(ECHA)の包括規制案という焦点
最大の論点が、欧州化学物質庁(ECHA)が2023年に公表した、包括的なPFAS制限の提案です。これはPFOS・PFOAのような特定物質だけでなく、フッ素ゴム・フッ素樹脂を含む広範なPFASを対象とするもので、制限発効後、一部用途を除き、用途ごとに設定される経過措置期間を経て、製造・使用・上市が制限される可能性があります。
業界では、この案がそのまま進めば「フッ素ゴム部品の代替が間に合わない場合、自動車サプライチェーンに大きな影響が生じるのではないかという懸念が示されています。」という強い懸念が語られています。仮に欧州だけで規制が始まれば、これまで世界共通だった製品仕様を地域ごとに分ける必要が生じ、開発費の増加や収益の圧迫につながりうる、という指摘もあります。
「特定PFAS」と区別すべきという議論
一方で、ゴム・樹脂業界からは強い反論があります。分子量が数万〜数十万に及ぶフッ素ゴムやフッ素樹脂を、分子量の小さいPFOA・PFOSと同列に規制するのは科学的でない、という主張です。フッ素樹脂メーカーからも、フッ素樹脂は本来の用途で使う限り人の健康や環境に大きなリスクをもたらさない、という説明がなされています。
ここから、規制では「特定PFAS(PFOS・PFOA等)」と「フッ素ポリマー・フッ素ゴム」を区別すべきだ、という論点が生まれています。実際、規制の焦点は「どの用途が例外(不可欠な用途=essential use)として認められるか」の調整に移りつつあります。なお、米国や日本では、現時点で欧州ほど踏み込んだ包括規制は検討されていません。
代替の動きも始まっている
規制を見据え、代替材料の開発も進んでいます。たとえば、PTFEの代替として超高分子量ポリエチレン(UHMW-PE)を提案する動きや、各社による脱フッ素・代替材の探索が進んでいます。一部メーカーは、将来の規制を見据えて代替製品の開発を急ぎ、競争上の優位を確保しようとしています。
愛知県を中心とする東海地域には、自動車メーカーだけでなく、ゴム、樹脂、表面処理、電子部品など多くのサプライヤーが集積しています。PFASの議論は、一部の化学メーカーだけの問題ではなく、地域産業全体に関わるテーマになりつつあります。
日本のサプライチェーンが取るべき視点
- まず棚卸し: 自社のどの部品・工程に、フッ素ゴム・フッ素樹脂などのPFASが使われているかを把握する。
- 取引先との連携: Tier1・Tier2・Tier3にまたがる問題であり、サプライチェーン全体での情報把握が必要です。
- 動向の継続把握: ECHAの最終的な規制内容(とくに例外用途の扱い)を追い続けること。
この業界が示すもの
- 影響範囲が最大級: 自動車は部品点数が多く、PFASの使用箇所も広いため、規制の影響が大きい分野です。
- 二者択一ではない: 「特定PFAS」とフッ素ポリマーを分け、用途ごとに考える視点が要ります。
- 慌てず、しかし早めに: まずは棚卸しから。知らないままでいることが、最大のリスクになりえます。
自動車は、PFAS問題の影響をもっとも広く受けうる産業の一つです。だからこそ、感情的な賛否ではなく、「自社のどこに、どのPFASが、どう使われているか」を冷静に把握することが、最初の一歩になります。
※本記事は公開情報・報道・業界情報に基づく一般的な解説です。規制動向は流動的であり、特定企業・製品を推奨するものではありません。社名・製品名は各社の商標です。
出典: 欧州化学物質庁(ECHA)PFAS制限提案(2023年公表)/ケマーズ(自動車・EVにおけるフッ素樹脂用途)/ユーロフィン(自動車製造とPFAS・EV冷媒HFC/HFO・リチウムイオン電池)/RUBBER STATION・ゴム報知新聞NEXT(フッ素ゴムと自動車部品・業界の見解)/Merkmal(自動車産業とPFAS規制・2026年の欧州審議)/三井化学(PTFE代替材UHMW-PE)





























