PFASはなぜ体内のタンパク質と結びつくのか |高知大学が「認識されやすさ」の構造的背景を解明
PFASは、環境中で分解されにくいだけでなく、体の中でどのように運ばれ、どのようなタンパク質と関わるのかについても研究が進められています。
その手がかりの一つとして注目されるのが、体内で脂肪酸の運搬に関わるタンパク質「FABP3」です。
高知大学の研究グループは、PFASの一種であるPFHpA・PFOAが、ヒトのタンパク質FABP3にどのように認識されるのかを、X線結晶構造解析などによって原子レベルで調べました。
本記事では、この研究成果をもとに、PFASがなぜ体内のタンパク質と結びつきやすいのか、そしてこの研究から「言えること」と「まだ言えないこと」を、一般向けにわかりやすく整理します。
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この記事のポイント
- PFASの一種であるPFHpAとPFOAが、ヒトのタンパク質FABP3に対して、同程度の長さを持つ通常の脂肪酸よりも「認識されやすい」性質を示しました。
- X線結晶構造解析により、PFASは脂肪酸とほぼ同じ場所に結合しつつ、タンパク質内部の「水分子ネットワーク」の近くに配置されることがわかりました。
- ただし本研究は、PFASの健康影響そのものを示したものではありません。体内でPFASがどのようにタンパク質と関わるのかを理解するための、基礎的な研究です。
そもそも「FABP3」とは何でしょうか
今回の主役となるFABP3は、「ヒト心臓型脂肪酸結合タンパク質」と呼ばれるタンパク質です。
心臓や筋肉などに多く存在し、細胞の中で脂肪酸に結びついて、その運搬や代謝を助ける働きをしています。脂肪酸は体のエネルギー源となる大切な分子です。その運搬に関わるFABP3も、私たちの体にとって重要な存在です。
ここで注目したいのが、PFASの「形」です。
PFASの一部は、細長い形が通常の脂肪酸によく似ています。そのため、PFASも脂肪酸に似た形で、FABP3に結合するのではないかという疑問が以前からありました。
今回の研究は、この疑問に「構造」の面から迫ったものです。
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わかったこと① 脂肪酸よりも「認識されやすい」可能性
研究グループは、PFASの一種であるPFHpA・PFOAと、長さの近い通常の脂肪酸であるC7:0・C8:0を、同じ条件で比較しました。
蛍光を使った実験の結果、PFHpA・PFOAは、これらの脂肪酸よりも低いIC50値を示しました。
IC50は、ここでは「どれくらい少ない量でタンパク質に結びつけるか」を比べるための目安です。値が小さいほど、同じ実験条件ではタンパク質に認識されやすいことを意味します。
つまり今回の結果からは、同じ条件のもとでは、PFHpA・PFOAのほうが通常の脂肪酸よりもFABP3に認識されやすい可能性が示されたことになります。
ただし、IC50は実験条件によって変わる見かけの指標です。結合の強さそのものを直接表す数値ではありません。ここではあくまで、同じ条件で測定したPFASと脂肪酸を比べた結果として受け止める必要があります。
わかったこと② 結合する場所は似ている。でも「水」の近くに違いがある
次に研究グループは、PFASがFABP3のどこに、どのように結合しているのかを、X線結晶構造解析で原子レベルまで観察しました。
その結果、PFASはFABP3の内部にある、脂肪酸を受け入れる「くぼみ」の中に入り、脂肪酸とよく似た位置に結合していることがわかりました。
一方で、ただ「形が似ている」だけでは説明しきれない特徴も見つかりました。
FABP3の内部には、水分子が集まった領域があります。PFASに特徴的なフッ素を多く含む部分、つまりフッ素化鎖が、この水分子ネットワークのすぐ近くに位置していたのです。
通常の脂肪酸では炭素と水素でできている部分が、PFASでは炭素とフッ素に置き換わっています。この違いが、FABP3による認識のされやすさに関わっている可能性があります。
何が新しいのでしょうか
これまで、PFASがタンパク質に結合する理由は、「脂肪酸と形が似ているから」「水になじみにくい性質があるから」と説明されることが多くありました。
今回の研究は、長さをそろえたPFASと脂肪酸を直接比べることで、それだけでは十分に説明できない要因がある可能性を示しました。
特に注目されるのは、タンパク質内部の水分子ネットワークとの関わりです。
PFASの認識には、形の類似や疎水性だけでなく、水分子を介した相互作用も関わっている可能性がある。これが、今回の研究から見えてきた重要なポイントです。
この知見は、PFASが体の中でどう運ばれ、どのように振る舞うのかを考えるうえでの基礎となります。将来的には、体内動態やリスク評価、そして代替物質の設計を検討するための土台にもなると期待されます。
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大切な注意点
ここは誤解されやすいところなので、はっきり整理しておきます。
本研究は、PFASの健康影響そのものを証明したものではありません。
今回わかったのは、PFASの一部がFABP3という一つのタンパク質に認識される仕組みの一端です。私たちの体の中では、ほかにもさまざまなタンパク質、細胞、臓器の働きが関わっています。
また、PFASといっても種類は非常に多く、すべてのPFASが同じように振る舞うわけではありません。
実際の体内での挙動や、健康への影響を明らかにするには、今後さらに研究を積み重ねていく必要があります。
今回の成果は、その長い道のりの中で、PFASが体内でどのように認識されるのかを理解するための、確かな一歩と位置づけられます。
pfasreach.jpの視点
PFASをめぐる情報は、ときに「危険」か「安全」かの二択で語られがちです。
しかし、実際に必要なのは、わかっていることと、まだわかっていないことを分けて理解することです。
今回のように、一つずつ仕組みを確かめていく基礎研究の積み重ねこそが、正確なリスク評価の土台になります。
「すでにわかっていること」と「まだわからないこと」を切り分けて受け止める。
それが、PFASと落ち着いてつきあっていくための第一歩だと、pfasreach.jpは考えています。
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出典・論文情報
【出典・論文情報】
■ 原著論文
Serina Maekawa, Nagisa Takamiya, Haruka Terawaki, Nozomi Kondo,
Fumio Hayashi, Takafumi Shimoaka, Shigeru Matsuoka, Nobuaki Matsumori,
Michio Murata, Masashi Sonoyama, Shigeru Sugiyama.
“Intermolecular interactions of perfluoroalkyl acids with human
heart-type fatty acid-binding protein.”
International Journal of Biological Macromolecules, Vol.369, 152710 (2026).
DOI: https://doi.org/10.1016/j.ijbiomac.2026.152710
論文ページ: https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0141813026026371
研究グループ:高知大学大学院総合人間自然科学研究科
前川瀬里菜氏、杉山成教授ら
■ 正誤表(Corrigendum)
同誌 Vol.370, 152941(2026年7月)に訂正が掲載されています。
最新の訂正内容は上記論文ページよりご確認ください。
■ プレスリリース
高知大学(一次):https://www.kochi-u.ac.jp/news/20260623/34989/
大学プレスセンター(転載):https://www.u-presscenter.jp/article/126879
■ 研究助成
公益財団法人ノバルティス科学振興財団 奨励金/JSPS科研費(23K17373 ほか)
【関連する研究】
・FABP4とPFAS
“Broad PFAS Binding with Fatty Acid Binding Protein 4 Is Enabled by
Variable Binding Modes.” JACS Au (2026).
DOI: https://doi.org/10.1021/jacsau.5c00504
(多様な結合様式でFABP4がPFASを収容しうることを示した構造研究。
本論文でも比較対象として参照されています)
・肝臓型FABP(L-FABP)とPFAS
Sheng N. et al. “Interaction of perfluoroalkyl acids with human liver
fatty acid-binding protein.” Archives of Toxicology, 90, 217–227 (2016).
DOI: https://doi.org/10.1007/s00204-014-1391-7
(PFASと肝臓のFABPの結合を調べた代表的研究)




























