ダイキン工業とPFAS|フッ素化学の最大手が向き合う規制と環境課題【企業シリーズ】
PFAS(有機フッ素化合物)を語るうえで、フッ素化学の最大手であるダイキン工業は避けて通れない企業です。
ダイキン工業は空調機器で世界的に知られる一方、化学事業の老舗でもあります。
この記事では、公開情報をもとに、ダイキンとPFASをめぐる現状とともに、中立に整理します。
ダイキン工業とは
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 会社名 | ダイキン工業 |
| 設立 | 1924年 |
| 本社 | 大阪市 |
| 主力事業 | 空調機器、化学事業 |
| 化学事業 | フッ素樹脂、フッ素ゴム、冷媒、化学品 |
| 特徴 | 世界有数の空調メーカーであり、フッ素化学分野でも長い歴史を持つ |
| 従業員数 | 約10万人(連結) |
| 売上高 | 約4兆円規模 |
ダイキン工業は空調機器メーカーとして世界的に知られていますが、実は1933年からフッ素化学事業に取り組んできた、日本を代表するフッ素化学メーカーでもあります。
現在もフッ素樹脂やフッ素ゴム、高機能化学品を製造しており、半導体、通信、自動車、医療、エネルギー分野など幅広い産業を支えています。
特に半導体製造分野では、高純度薬品や耐薬品性材料としてフッ素化学製品が重要な役割を担っており、近年のAI・データセンター需要拡大とも関わりが深い分野となっています。
ダイキンとフッ素化学
ダイキン工業は、フッ素樹脂・フッ素ゴム・フッ素化学品を幅広く手がけてきました。
これらの素材は、耐熱性・耐薬品性・撥水撥油性に優れ、自動車・半導体・電子部品など多くの産業を支えてきました。
フッ素化学はダイキンの基盤技術の一つです。
ダイキン工業は、フッ素ポリマー製造に使われていたPFOAについて、2012年に製造・使用を終了しています。
PFOAはその後、2019年にストックホルム条約(POPs条約)で廃絶対象に加えられ、日本でも2021年に化審法(化学物質審査規制法)の第一種特定化学物質に指定されて、製造・輸入・使用が原則として禁止されました。
同社はこうした国際的な規制強化に先立つ形で、早期に転換を進めてきたといえます。
現在は代替技術への移行を進めながら、持続可能なフッ素化学の実現を重要課題として位置付けています。
一方で、過去に使用・製造されていた物質が環境中に残留している可能性があり、その対応が現在も続いています。
摂津の工場をめぐる公害調停
近年、注目されているのが、大阪府摂津市にあるダイキン工業・淀川製作所をめぐる動きです。
公開情報によると、同製作所では2012年まで、PFASの一種であるPFOA(ペルフルオロオクタン酸)を製造・使用していました。
国の目安(合算50ナノグラム)と検出の状況
国は、PFOSとPFOAについて、両物質の合算で1リットルあたり50ナノグラムという値を、水道水(暫定目標値)および公共用水域・地下水(暫定指針値)の管理の目安としてきました。このうち水道水の値は、2026年4月から水道法上の水質基準として正式に位置付けられています。
摂津市の工場周辺では、過去の大阪府の調査で、本来は合算で評価するこの50ナノグラムを、PFOA単独で上回る濃度が地下水などから検出されてきました。
住民約1100人による公害調停
2025年12月、周辺住民ら約800人が、大阪府公害審査会に公害調停を申し立てました。
報道によれば、企業を相手にしたPFAS関連の公害調停は全国で初めてとされ、住民側は、調査資料の開示、継続的な地下水調査、汚染対策、被害補償を話し合う協議会の設置などを求めています。
その後、2026年5月には約300人が追加で申し立て、申立人は計約1100人となりました。
住民側の弁護団によれば、1回目の調停は2026年7月1日に開かれる予定です。
健康調査を求める背景
住民側が健康調査を求める背景には、血液検査の結果があります。市民団体と研究者グループが2023年に実施した住民らの血液検査では、PFOAの血中濃度が大阪府全体で環境省の全国調査のおよそ3倍弱、摂津市の住民では4倍を超える水準にのぼったと報告されています。
これは行政による調査ではなく、住民・研究者側が独自に行ったものですが、健康影響への懸念が調停申し立ての一因となっています。
なお、血中濃度と具体的な健康影響との関係については、現時点で十分に解明されていない部分も残されています。
ダイキン工業の対応と対策
これに対しダイキン工業は、調停手続きのなかでも建設的な対話を通じて対応を検討する考えを示し、住民向けの相談窓口を設けているとされています。
同社は工場周辺で、地下水の流出を防ぐ遮水壁の設置(2023年末〜)や、地下水の汲み上げ・浄化などの対策を進めているとされます。
ただし報道では、周辺の地下水濃度は依然として高く、現時点で低減効果は限定的との指摘もあります。
また、地下水の汲み上げにともなう地盤沈下が周辺で報告されているとの報道もあり、対策の難しさがうかがえます。
PFOAとPFAS全体は分けて考える
なお、PFASは数千種類以上の化学物質群の総称です。
今回の摂津市周辺で主に問題となっているのは、その中の一種であるPFOAです。
PFAS全体と個別物質の議論は、区別して考える必要があります。
現在のダイキンが取り組んでいること
近年、フッ素化学の転換期を迎え、世界各国でPFAS規制の議論が進んでいます。
ダイキン工業もフッ素化学事業のあり方の見直しを進めています。
規制対応とフッ素材料の供給
同社は過去にPFOA(ペルフルオロオクタン酸)を製造・使用していましたが、現在は国内外の拠点でその製造・使用を終了しています。
一方で、半導体・医療・通信・エネルギーなどの分野では、代替が難しいフッ素材料の需要が依然として大きく、ダイキンはこうした社会的に必要とされる用途への供給を続けています。
製造工程の見直しと環境負荷低減
同時にダイキンは、フッ素ポリマー製造におけるPFOAからの転換を進め、製造工程の改善や環境中への排出を抑制する技術の強化に取り組んでいると公表しています。
今後も規制対応や研究開発への投資を継続し、必要な供給を維持しながら環境負荷の低減を目指す方針を示しています。
この事例が示すもの
ダイキンの事例は、PFASをめぐる論点を象徴しています。
- 製造を終えても残る: PFOAの製造を終えてから10年以上が経過しても、地下水中心に高濃度の検出が続くという「分解されない物質」の性質。
- 企業責任の問われ方: 「過去に合法的に製造していた」物質について、企業がどこまで調査・対策・補償の責任を負うのかが、調停を通じて問われている段階にあること。
- 転換の必要性: フッ素化学を担う企業ほど、代替技術や使用管理への転換が経営課題になっていること。
PFASは、特定の一社を断罪して終わる問題ではありません。
便利さを社会全体が享受してきた歴史と、その後始末をどう分担するか——ダイキンの事例は、その難しさを冷静に映し出しています。
PFAS Reach視点
ダイキン工業は、PFAS問題において「過去にPFASを製造してきた企業」であると同時に、「PFAS規制時代のフッ素化学をどう成立させるか」を模索する企業でもあります。
特に半導体や通信、医療分野では代替が難しいフッ素材料も多く、環境対策と産業競争力の両立は世界共通の課題となっています。
ダイキンの取り組みは、日本のフッ素化学産業全体の方向性を考える上でも注目される動きといえるでしょう。
よくある質問
Q. ダイキンは現在もPFOAを製造していますか?
いいえ。公開情報によれば、ダイキン工業は2012年にPFOAの製造・使用を終了しています。
Q. 摂津市で検出されているPFASは何ですか?
報道や行政資料では、主にPFOAが問題となっています。
Q. ダイキンは対策を行っていますか?
公開情報によれば、遮水壁の設置や地下水浄化などの対策が進められています。
※本記事は公開情報・報道に基づく解説であり、特定企業の責任の有無を断定するものではありません。
出典
日本経済新聞・各紙報道(2025年12月23日 公害調停申請)/大阪府公害審査会 関連情報/ダイキン工業 公表コメント / 京都大学研究グループ・大阪PFAS汚染と健康を考える会 血液検査(2023年)/日本経済新聞ほか(2026年5月 第2次申請・初回調停期日 報道)/化審法・ストックホルム条約 関連情報(経済産業省・環境省)






























