PFAS対策ロードマップ|中小製造業が取るべき5つのステップ
PFAS対策ロードマップ|中小製造業が取るべき5つのステップ
はじめに|止まる理由は「知識不足」だけではありません
PFAS対応が進まない中小製造業には、共通したつまずき方があります。
それは、規制の知識が足りないことだけではありません。
むしろ多いのは、誰が担当するのかが決まらないまま、数か月が過ぎてしまうことです。
品質保証は「これは購買の仕事ではないか」と考える。購買は「技術部門が判断すべきではないか」と考える。総務は「うちの管轄ではない」と感じる。そのあいだに、取引先から届いた調査票の回答期限が近づいていきます。
PFAS対応で最初に必要なのは、完璧な専門知識ではありません。
まず必要なのは、社内で動ける順番を決めることです。
本記事では、中小製造業がPFAS対応を進めるための実務を、5つのステップに分けて整理します。
- 誰が担当するか
- どれくらい時間がかかるか
- 何ができあがれば次へ進めるか
この3点を中心に、現場で止まりにくい進め方を紹介します。
なお、ここではPFAS規制の詳細そのものではなく、社内で対応を動かすためのロードマップを扱います。すべてを一度に行う必要はありません。中小製造業のリソースでも現実的に進められる順序があります。

開始地点は2つあります
まず、自社がどちらの状態にあるかを確認してください。ここで進め方が変わります。
A. まだ取引先から何も聞かれていない場合
時間に余裕があります。
STEP 1から順に、3〜6か月ほどかけて進めるのが現実的です。この段階で着手できる会社は、かなり有利です。
B. すでに調査票が届いている/回答期限がある場合
STEP 1とSTEP 2を圧縮し、期限までに「現時点で判明していること」と「確認中の事項」を分けて回答します。
分からないことを「確認中」として整理した回答は、期限を過ぎた無回答よりも実務上は望ましい対応です。完璧な回答を目指して沈黙することは避けてください。
以下ではAを前提に説明しつつ、Bの場合の圧縮方法も各ステップで触れます。
STEP 1|担当と範囲を決める

期間の目安:1〜2週間
最初に行うのは、調査ではありません。体制づくりです。
ここを飛ばすと、PFAS対応は「誰かがやるはずの仕事」になり、実際には誰も進められなくなります。
決めることは3つです。
1. 窓口を1名決める
兼任で構いません。重要なのは、「化学物質関連の問い合わせは、まずこの人に集約する」と社内で決めることです。専門家である必要はありません。最初の役割は、判断ではなく情報の集約です。
2. 対象範囲を決める
全製品・全工程を一度に調べるのは、中小企業の体制では現実的でない場合があります。まずは、次のような優先度の高い範囲から始めます。
- EU向けに出ている製品
- 主要取引先に納めている製品
- 調査票の対象になりやすい製品ライン
- フッ素樹脂、表面処理剤、潤滑油などを使っている可能性がある工程
3. 経営層に共有しておく
PFAS対応では、分析費用や材料変更の検討が必要になることがあります。STEP 4になってから「その費用は聞いていない」となると、そこで対応が止まります。早い段階で、対応の必要性とおおまかなスケジュールを共有しておきます。
アウトプット
担当者名、対象製品・工程、想定スケジュールをまとめた1枚のメモ。
つまずきやすい点
「詳しい人がいないから決められない」と先送りすること。この段階で必要なのは専門知識ではなく、社内の交通整理です。
次へ進む判断基準
窓口の氏名と対象範囲が、文書として残っていること。
すでに調査票が届いている場合
窓口と対象製品だけを即日決めます。経営層への共有は、期限内回答を優先したうえで並行して進めます。
STEP 2|使っているものを洗い出す
期間の目安:1〜2か月
対象範囲が決まったら、そこに使われている化学品、部材、設備関連品を棚卸しします。
中心になる資料は、SDS(安全データシート)です。
確認するのは、製品の主原料だけではありません。PFASは、主原料ではなく副資材や部品、設備側の材料に含まれることがあります。
| 区分 | 具体例 |
|---|---|
| 工程で使うもの | 離型剤、潤滑油、切削油、洗浄剤、フラックス |
| 部材に施すもの | 撥水・撥油処理剤、防汚処理剤、めっき工程のミスト抑制剤 |
| 部品として入るもの | フッ素樹脂のシール材、パッキン、Oリング、チューブ、電線被覆 |
| 設備側 | 泡消火設備・消火薬剤、コンプレッサーオイル |
SDSでは、成分名や製品説明に次のような記載がないかを確認します。
- フルオロ
- パーフルオロ
- ポリフルオロ
- PTFE
- PFA
- PVDF
- FKM
ただし、SDSに記載がないことは「PFASを含まない」ことの証明にはなりません。SDSの記載は法令上の対象や濃度要件に左右されるためです。
この段階では、確定判断を急がず、PFAS含有の可能性がある候補品を拾い上げることを目的にします。
アウトプット
候補品目リスト。品名、メーカー名、用途、SDSの有無、確認状況をまとめます。Excelやスプレッドシートで十分です。
つまずきやすい点
SDSが手元にそろっていないこと。特に長年使っている副資材ほど、最新版が見当たらないことがあります。その場合は、SDSの取り寄せ自体を次の作業に含めます。
次へ進む判断基準
候補リストができ、SDSの欠落分について取り寄せ依頼を出し終えていること。
すでに調査票が届いている場合
対象製品を1〜2品目に絞り、BOM(部品表)や購買履歴に載っているものを優先して確認します。
STEP 3|該当するかを確かめる

期間の目安:2〜3か月
候補品目が見えてきたら、サプライヤーへ照会します。
ここが最も時間のかかる工程です。自社だけでは完結しません。サプライヤーもさらに上流へ確認している場合があり、回答待ちの時間が発生します。
照会のポイントは4つです。
1. 物質名だけで判断しない
PFAS関連規制では、個別の物質名だけでなく、構造による定義が使われることがあります。そのため、「この物質名はリストにありますか」だけでは十分でない場合があります。必要に応じて、対象となる規制の定義に該当するかを確認します。
2. 質問文を統一する
サプライヤーごとに聞き方が違うと、回答を比較しにくくなります。照会文面を1つ作り、同じ形式で確認します。
3. 回答期限を明示する
期限のない照会は、相手先で優先度が下がりやすくなります。3〜4週間程度を目安に、回答期限を明記します。
4. 回答がない場合の扱いを決めておく
すべてのサプライヤーから回答が得られるとは限りません。「2回催促しても回答がない場合は、代替調達先の検討対象にする」など、社内で扱い方を決めておくと判断が止まりにくくなります。
アウトプット
品目ごとの照会結果一覧。該当あり、該当なし、回答待ち、回答不能などに分けます。
つまずきやすい点
「不明」「非開示」という回答が返ってくること。これは失敗ではありません。確認したが不明だったという記録も、次回以降の説明材料になります。
次へ進む判断基準
一覧の8割程度が埋まり、残りの扱い方針が決まっていること。全件確定を待つ必要はありません。
すでに調査票が届いている場合
期限までに返ってきた回答をもとに、「確認済み」と「確認中」を分けて回答します。
STEP 4|必要な範囲だけ測る

期間の目安:1〜2か月
すべての事業所で分析が必要なわけではありません。
分析は、文書確認だけでは判断できない場合や、取引先・社内判断のために数値が必要な場合に検討します。
測定を検討したいケース
- 工場排水を公共用水域や下水道に排出しており、周辺でPFASの検出事例がある
- 敷地内に古い泡消火設備があり、過去の放出・漏出の記録または可能性がある
- 取引先から製品含有分析の結果提出を求められている
- 自社敷地内で井戸水を利用している
急いで測る必要が低いケース
- 上記に該当しない
- STEP 3で主要な購入品について該当なしが確認できている
- 取引先の要求が、分析結果ではなく含有有無の申告にとどまっている
分析を行う場合は、目的を先に決めます。
排水の実態把握なのか、製品含有の確認なのか、土壌や井戸水の確認なのかによって、対象、採取方法、費用、納期が変わります。
PFAS分析は、対象物質数、媒体、納期によって費用が大きく変わります。1検体あたり数万円規模が一つの目安になることもありますが、条件によって開きがあります。必ず複数の分析機関に相談してください。
また、PFASは微量分析です。採取容器や手袋、器具にフッ素樹脂加工品を使うと、それ自体が汚染源になることがあります。採水・採取の手順は、必ず分析機関の指示に従います。
アウトプット
測定を行った場合は分析報告書と社内メモ。測定しない場合は、測定しないと判断した理由を残します。
つまずきやすい点
結果が出たあとの扱いです。検出されたことと、ただちに違法であることは同じではありません。数値の意味を整理し、必要に応じて専門家へ相談したうえで対応を判断します。
次へ進む判断基準
測る/測らないの判断と、その理由が文書に残っていること。
STEP 5|答えられる状態にする

期間の目安:継続
STEP 1〜4は、最初の調査です。
しかし、PFASに関する照会は今後も繰り返し届きます。規制や取引先要求も変わります。同じ調査を毎回やり直さないために、最後は仕組みにします。
やることは3つです。
1. 台帳をつくる
STEP 2〜4の結果を1つのファイルにまとめます。
最低限、次の項目があれば運用できます。
- 品目名
- メーカー名
- 用途
- 確認日
- 確認方法
- 確認結果
- 根拠資料の保管場所
- 判断理由のメモ
専用システムである必要はありません。まずはスプレッドシートで十分です。
2. 回答テンプレートをつくる
取引先の調査票は書式が違っても、聞かれる内容は似ています。
自社の標準回答文を用意しておくと、次回以降の回答時間を短縮できます。
3. 更新のきっかけを決める
台帳は、作っただけでは古くなります。
更新のきっかけを決めておきます。
- 新しい材料を採用するとき
- 規制や取引先要求が変わったとき
- 年1回の定期見直し
日付やタイミングを決めない更新ルールは、ほとんど機能しません。
アウトプット
含有情報台帳、標準回答文、更新ルール。
つまずきやすい点
担当者の異動や退職で、判断の経緯が失われること。台帳には結果だけでなく、「なぜそう判断したか」を1行添えてください。引き継ぎの負担が大きく変わります。
全体スケジュールの目安
まだ照会が来ていない状態から始める場合、全体では約6か月が一つの目安です。
| 時期 | 実施内容 | 想定工数 |
|---|---|---|
| 第1〜2週 | STEP 1:担当と範囲の決定 | 数時間の打合せを2〜3回 |
| 第1〜2か月 | STEP 2:SDS棚卸し | 担当者の業務時間の1〜2割程度 |
| 第2〜4か月 | STEP 3:サプライヤー照会 | 発送後は回答待ちが中心 |
| 第4〜5か月 | STEP 4:必要範囲の分析 | 外部委託が中心。社内は採取立会いと結果確認 |
| 第5〜6か月 | STEP 5:台帳・テンプレート整備 | 調査結果の整理 |
| 以降 | 年1回の見直し | 半日程度 |
特に時間がかかるのはSTEP 3の回答待ちです。STEP 2を早く終えるほど、全体の進行も早くなります。
やらなくてよいこと
限られたリソースで進めるためには、優先度を下げてよいものもあります。
- 全製品・全工程の一斉調査
まずはリスクの高い製品ラインからで十分です。 - 「PFASフリー」の宣言を急ぐこと
PFASの範囲や確認方法を定義しないままの表明は、後で自社を縛る可能性があります。 - 代替材料への即時切り替え
該当性が確定していない段階での仕様変更は、品質リスクとコストを同時に抱えます。まず確認し、そのうえで判断します。 - 社内向けの大規模な教育プログラム
最初から全社教育を行う必要はありません。まずは窓口と関係部門が動ける状態をつくります。
まとめ
PFAS対応が止まる大きな理由は、知識不足だけではありません。
多くの場合、最初に止まるのは「誰が担当するのか」が決まらないところです。
中小製造業では、次の順番で進めると現実的です。
1. 担当と範囲を決める
2. 使っているものを洗い出す
3. サプライヤーへ該当性を確認する
4. 必要な範囲だけ分析する
5. 次回以降も答えられる台帳にする
PFAS対応は、一度で完璧に仕上げる仕事ではありません。
分かったことを記録し、分からないことを確認中として整理し、次に聞かれたときに答えられる状態を積み上げる。その積み重ねが、結果として最も早い対応になります。
専門家との境界について
個別の製品・原材料が規制対象に該当するかどうかの最終判断、契約上の責任、行政対応に関する法的判断は、弁護士等の専門家に確認する必要があります。
また、公的な濃度証明が必要な場合は、計量証明事業者や環境計量士による対応が必要です。
本記事は、社内でPFAS対応を進めるための一般的な手順を整理したものです。個別の事業所に必要な対応を保証するものではありません。法令の適用や具体的な判断については、所管官庁および専門家にご確認ください。
※本記事は2026年9月時点の一般的な進め方をもとに整理しています。
ご相談を承っています
「担当を決めたものの、何から手をつければよいか分からない」
PFAS対応では、この段階でご相談をいただくことが少なくありません。
PFAS Solutions+では、棚卸しの進め方、サプライヤーへの照会文面の作成、分析機関への相談準備、調査結果の台帳化まで、STEP単位での支援が可能です。
まずは、自社がどの段階にあるかを整理するところからご相談ください。
無料ダウンロード
PFAS対応を社内で進めるためのチェックリスト
担当者の決め方、SDS確認、サプライヤー照会、分析判断、台帳化まで、中小製造業が最初に確認したい項目を整理しました。
フォーム送信後、PDFのダウンロードURLをメールでお送りします。
FAQ
Q1. 全部で費用はどれくらいかかりますか。
A. STEP 1〜3は主に社内工数で進められるため、外部費用が大きく発生しない場合もあります。費用が生じやすいのはSTEP 4の分析です。PFAS分析は、対象物質数、媒体、納期によって費用が変わります。1検体あたり数万円規模が目安になることもありますが、条件によって大きく異なるため、複数の分析機関へ見積りを取ることをおすすめします。なお、すべての事業所に分析が必要なわけではありません。
Q2. 専門知識のある社員がいません。それでも進められますか。
A. 進められます。STEP 1で必要なのは、専門知識よりも社内の交通整理です。判断が必要になるのはSTEP 3以降で、その段階では外部の専門家や分析機関に相談できます。詳しい人が現れるのを待って着手が遅れることのほうが、実務上の損失になりやすいです。
Q3. 取引先から調査票が届いており、期限が迫っています。
A. 完璧な回答を目指して沈黙することは避けてください。まず窓口と対象製品を決め、判明していることと確認中の事項を分けて期限内に回答します。「確認中」と明記した回答は、無回答よりも実務上は望ましい対応です。
Q4. 分析は必ず実施すべきですか。
A. 一律に必要とは限りません。工場排水、古い泡消火設備、取引先からの分析結果提出要求、井戸水利用などがある場合は検討対象になります。一方で、文書確認で主要な購入品の該当性が整理できており、取引先要求も申告にとどまる場合は、すぐに分析が必要でないケースもあります。測らないと判断した場合も、その理由を記録に残すことが重要です。
Q5. 自社製品を「PFASフリー」と表示してよいですか。
A. 定義を決めずに「PFASフリー」と表示することはおすすめしません。PFASの範囲、意図的添加だけを見るのか、分析方法や検出限界をどう扱うのかによって意味が変わります。表明する場合は、自社が用いるPFASの定義、確認方法、対象範囲を明文化し、その定義とセットで示す必要があります。


























