「測る」から始まるPFAS対策──島津製作所が支える分析の最前線【企業シリーズ・測定編①】
なぜ「測る」が出発点なのか
PFAS対策は、規制対応も、除去技術の導入も、住民や取引先への説明も、すべて「正確に測れること」を前提に成り立っています。
どれだけ含まれているのかが分からなければ、対策の要否も、効果の検証も判断できません。
その「測る」が、2026年4月に大きな節目を迎えました。
環境省は2025年6月30日に水質基準に関する省令などを改正・公布し、PFOSおよびPFOAを水道水の水質基準項目に追加、基準値は両者の合算で50 ng/L(0.00005 mg/L)以下と定めました。
施行は2026年4月1日。以降、自治体や水道事業者には概ね3か月に1回の水質検査と基準値の遵守が義務付けられます。
この基準値は、食品安全委員会が示したTDI(耐容一日摂取量)などを踏まえて算定し直された結果として、従来の暫定目標値と同じ50 ng/Lになっています。
努力義務だった検査が、法的義務に変わる。
これは全国の水道事業者・検査機関にとって、PFASを「ng/Lのオーダーで、確実に、繰り返し測る」体制づくりが急務になったことを意味します。
今回はこの「測る」を支える代表的な存在として、分析計測機器の島津製作所を取り上げます。
島津製作所とは
島津製作所は京都に本社を置く分析計測機器の大手で、医用機器や産業機器も手がける総合機器メーカーです。
なかでもPFAS分析の中核となるのが、液体クロマトグラフ質量分析計(LC-MS/MS)の分野です。
PFASは水・食品・土壌・排水といった複雑な試料の中に、ごく微量で存在します。
これを「どの物質が」「どれだけ」含まれるか分けて測るには、高い分離能と感度を併せ持つ装置が要ります。
PFAS分析の中核──トリプル四重極LC-MS/MS
PFAS測定の主役は、トリプル四重極型のLC-MS/MSです。
島津のLCMS-8060NXは、高感度・高速分析を特徴とする同社のフラッグシップ機で、ng/Lという極微量領域のPFAS分析にも対応しています。
ng/Lという極微量の領域を測るために設計されています。
そして冒頭でも触れた通り、2025年8月7日には新モデル「LCMS-8065XE」が発売されました。
従来機の性能を継承しつつ感度と頑健性を高めた装置で、高額な分析機器であるため、導入できるのは主に検査機関や大規模事業者に限られます。
需要が急拡大するPFAS分析市場向けに展開する計画です。
水質基準化のタイミングに合わせて分析機器側も動いている、という構図がよく分かります。
「正確に測る」ための周辺技術
PFAS分析の難しさは、装置の感度だけでは語れません。
むしろ現場の悩みは
「微量すぎて、外からの混入(コンタミネーション)に結果が左右される」
「検査件数が増えて前処理が回らない」
といった運用面に集中します。
島津はここに複数の手当てを用意しています。
ひとつは、混入対策です。
島津は飲料水中PFAS用のLC/MS/MSメソッドパッケージに加え、LCの接液部からの有機フッ素化合物の溶出を最小化する「PFAS分析用オプションキット」を用意しており、両者を組み合わせることで信頼性・堅牢性の高い分析が可能になるとしています。
装置そのものがPFASを出してしまっては正確に測れない、という分析特有の落とし穴への対策です。
もうひとつは、前処理の自動化と効率化です。
オンラインSPE(固相抽出)とLC-MS/MSを組み合わせる手法では、欧州飲用水指令で対象となる20種を含む計44種のPFASをng/Lオーダーで分析でき、前処理に必要な作業時間や溶媒を大幅に削減できるとされています。検査が3か月ごとの義務になり、件数が一気に増える現場にとって、前処理の省力化は死活的です。
データ解析の負担を下げる工夫もあります。
島津のPeakintelligenceは、熟練作業者が行った波形処理を機械学習させることで、事前のパラメータ調整なしに熟練者と同等レベルのピーク解析を実現する機能で、PFAS分析にも応用されています。
属人的になりがちな波形判定を平準化し、検査の信頼性と再現性を底上げする発想です。
(※LCMS、LabSolutions、Peakintelligenceは株式会社島津製作所またはその関係会社の商標です。)
公定法への対応と「総量」という視点
PFASの測定方法は国・用途ごとに標準化が進んでいます。
島津は、EPA Method 1633やISO 21675に基づく工場排水中PFAS分析、ASTM D8421-22に基づく分析、さらにEPA 1621に準拠した吸着性有機フッ素化合物(AOF)の分析など、複数の公定法・標準法に対応したソリューションを提示しています。
ここで注目したいのが、個別物質を一つずつ測る従来の考え方に加え、吸着性有機フッ素(AOF)のように「フッ素の総量」で捉えるアプローチが出てきている点です。
PFASは1万種以上あるとされ、すべてを個別に測るのは現実的ではありません。
「総量で網をかけ、必要に応じて個別に詳しく測る」という二段構えの測定設計が、これからの実務では重要になっていきます。
ただしAOFは「どのPFASが含まれているか」までは分からず、スクリーニング用途としての位置づけになります。
総量分析と個別分析は競合ではなく補完関係にあります。
水以外のマトリックスへ
測定ニーズは飲料水だけにとどまりません。
島津はトリプル四重極質量分析計を用いた食品中PFAS分析(魚の切身・牛乳など)で、AOACが指針値を示す30種類のPFASを高精度に定量する手法も公開しています。
水試料以外のマトリックス、すなわち土壌や農畜水産物、さらには工場排気からの大気拡散まで、PFAS分析の対象は広がっているのが現状です。
製造業にとっては、ここが要点になります。
義務化は「水道水」が入口ですが、サプライチェーンで問われるのは自社の排水・原材料・製品中のPFASです。
「何を、どのマトリックスで、どの方法で測るか」を最初に設計できているかどうかが、コストと信頼性の差になって表れます。
自前で測れない場合の選択肢─ 受託分析
高感度のLC-MS/MSは高額で、運用にも専門知識が要ります。
すべての事業者が自前で抱えられるわけではありません。
その受け皿として、島津テクノリサーチのようなグループ企業が、製品中のPFAS分析や多項目PFAS分析といった受託分析サービスを提供しています。
機器を「買う」のか、分析を「外に出す」のか。
これも測定設計の一部です。
まとめ 測定は「結果が出てから」ではなく「設計」が勝負
2026年4月の水質基準化で、PFASを「測る」ことは努力ではなく義務になりました。
島津製作所のような分析機器メーカーは、その義務を技術的に成り立たせている縁の下の存在です。
高感度なLC-MS/MS、混入対策、前処理の自動化、AIによる解析支援、公定法対応、そして受託という出口まで、「正確に・効率よく・繰り返し測る」ための部品が一通り揃いつつあります。
裏を返せば、事業者側に問われるのは「測ってから考える」ではなく、「どこを、何を、どの方法で測るか」を先に設計することです。
測定の設計を誤れば、義務は果たしても本当のリスクは見えてこない―PFAS対策の出発点が「測る」である理由は、ここにあります。
本記事は公開情報に基づく独立した解説であり、特定企業との資本・提携関係に基づくものではありません。
PFAS Solutions+では、特定の分析機器や分析会社に依存しない立場で、PFAS対策の進め方に関する情報発信を行っています。
「自社の場合は何を測るべきか」
「受託分析で十分なのか」
「排水・製品・原材料のどこから確認すべきか」
といった初期整理が必要な場合は、お気軽にご相談ください。



























