トランプ政権下でEPAのPFAS規制はどうなったか?2025〜2026年の動向を完全解説
2024年11月の米国大統領選挙でドナルド・トランプ氏が勝利し、2025年1月に第47代大統領として就任しました。「規制緩和」を掲げるトランプ政権のもとで、前バイデン政権が2024年4月に確定したPFAS飲料水規制(PFOS・PFOA各4ng/L)はどうなったのでしょうか。
「規制が撤廃されるのでは」「日本への影響は」という疑問に答えるため、2025年から2026年にかけてのEPAの動向を詳しく解説します。
結論:PFOS・PFOA 4ng/Lは維持、ただし一部緩和
トランプ政権下でのEPAのPFAS規制の方向性を一言でまとめると:
「PFOS・PFOAの4ng/Lは維持。ただし遵守期限を延長し、その他4物質の規制は再検討・撤回」
全面撤廃でも維持強化でもなく、「選択的な維持と部分的な緩和」という方針です。
バイデン政権が確定した2024年規制の内容
まず前政権が確定した規制の内容を確認します。
2024年4月10日にバイデン政権下のEPAが確定した第一種飲料水規則(NPDWR):
物質 とMCL(法的基準値)の関係
- PFOA : 4ng/L
- PFOS : 4ng/L
- PFHxS : 10ng/L
- PFNA : 10ng/L
- HFPO-DA(GenX) : 10ng/L
- PFHxS+PFNA+HFPO-DA+PFBSの混合物 : ハザード指数1.0
遵守期限:公布から5年後(2029年)
トランプ政権下での主な動き(時系列)
2025年1月:政権交代
トランプ大統領が就任。リー・ゼルディン氏がEPA長官に就任しました。ゼルディン長官は就任当初から「科学的根拠に基づく規制」「規制負担の軽減」を掲げました。
2025年5月:重大発表
EPAが飲料水PFAS規制について以下の方針を発表
- PFOS・PFOAの4ng/Lは維持する
「PFOS・PFOAについては規制値4ng/Lを維持する」と明言。前政権の規制値を覆さないことを確認しました。 - 遵守期限を2029年から2031年に延長する方向で検討
水道事業者がMCLに適合するための期間を2年追加する方向性を示しました。 - PFHxS・PFNA・HFPO-DA・PFBSの4物質の規制を撤回・再検討
「科学的証拠が不十分」として、この4物質の規制(10ng/L)を撤回・再検討する意向を発表。2025年秋に規則案を発表し、2026年春に最終確定する予定と示しました。
2025年9月:PFOA・PFOSの有害物質指定を維持
EPAはCERCLA(スーパーファンド法)に基づくPFOA・PFOSの有害物質指定を維持する方針を連邦裁判所に示しました。多くの関係者が撤廃を予想していたため、この決定は注目を集めました。
有害物質指定が維持されることで
- PFOA・PFOSで汚染された土地の清浄化責任が污染者に課される
- 環境調査(フェーズ1)でのPFAS考慮が継続
- 企業の潜在的なPFAS汚染責任が存続
2026年1月:連邦裁判所がEPAの規制撤廃要請を棄却
EPAがPFHxS・PFNA・HFPO-DA・PFBSの10ng/L規制を「一時的に無効化」するよう裁判所に申請しましたが、2026年1月21日に連邦地方裁判所がこの申請を棄却しました。
これにより2026年4月時点で
- PFOS・PFOA:4ng/L(維持・遵守期限2031年に延長方向)
- PFHxS・PFNA・HFPO-DA・PFBS:10ng/L(裁判所命令で維持)
という状態が続いています。
2026年4月:TSCAデータ報告義務が開始
有害物質規制法(TSCA)第8条(a)(7)に基づくPFAS報告義務の報告期間が開始されました。
- 対象:2011〜2022年の間にPFASを製造・輸入した事業者
- 報告期間:
・ 一般事業者:2026年4月13日〜10月13日
・ 小規模事業者(PFAS含有製品の輸入のみ):〜2027年4月13日 - 報告内容:製造量・輸入量・用途・健康・環境影響データ等
このデータ収集によって米国内のPFASの実態把握が大幅に進む見込みです。
トランプ政権のPFAS規制の特徴:「選択的な維持」
トランプ政権のPFAS規制の特徴は「PFAS規制全体を否定するのではなく、選択的に維持・緩和する」という姿勢です。
維持されたもの
- PFOS・PFOA の4ng/L(飲料水基準値)
- PFOA・PFOSのCERCLA有害物質指定
- PFAS全般の規制優先課題としての位置づけ
- TRI(有害物質排出目録)でのPFAS報告対象の拡大(206物質)
- TSCAによるPFASデータ報告義務
緩和・再検討されたもの
- PFOS・PFOAの遵守期限(2029年→2031年への延長)
- PFHxS・PFNA・HFPO-DA・PFBSの10ng/L規制(撤回・再検討)
- PFAS報告義務の報告期間(繰り返し延期)
なぜ4ng/Lは維持されたのか
多くの観測者が「トランプ政権はPFAS規制を撤廃する」と予想していましたが、PFOS・PFOAの4ng/Lは維持されました。理由は複数考えられます。
- ①科学的・法的リスク
PFOS・PFOAの4ng/Lには強固な科学的根拠があり、撤廃しようとすれば環境保護団体・州政府・住民からの訴訟リスクが高い。 - ②超党派の支持
PFAS規制は共和党支持者が多い農業地帯・軍基地周辺地域にも汚染被害が広がっており、PFAS規制への支持は党派を超えている。 - ③州レベルの規制の存在
すでに18州以上がPFASに関する独自の規制を設けており、連邦規制を撤廃しても州法は存続する。 - ④「規制緩和」でなく「効率的な規制」という言い方
トランプ政権は「不必要な規制負担の排除」を目標としており、科学的根拠の強い規制まで撤廃することは政治的に難しい。
2026年以降の注目点
- PFHxS・PFNA・HFPO-DA・PFBSの行方
EPAが2025年秋に発表予定とした規則案の内容・2026年春の最終確定の動向。裁判所との攻防が続く可能性があります。 - PFOS・PFOAの遵守期限延長の正式決定
2031年への延長を正式に確定する最終規則の公布時期。 - TSCAデータ報告の結果
2026年4〜10月の報告期間で収集されたデータがPFAS規制の次の段階にどう影響するか。 - 州レベルの規制の拡大
連邦規制の緩和を補完する形で、州レベルのPFAS規制がさらに厳しくなる可能性があります。
日本への影響
- 米国が緩和したから日本も緩和でいい」とはならない
PFOS・PFOAの4ng/Lが維持されたことで「米国基準が緩和された」という解釈は誤りです。日本の規制見直し議論への影響は限定的です。 - 日本企業の米国輸出・事業への影響
PFOS・PFOAの4ng/Lは維持されているため、米国で事業を行う日本企業は引き続き対応が必要です。PFHxS等の4物質については規制再検討中のため、動向の継続的なフォローが必要です。 - TSCAデータ報告の対象確認
2011〜2022年に米国にPFASを輸出した日本企業は、TSCAデータ報告義務の対象となる可能性があります。
まとめ
トランプ政権下のEPA PFAS規制のポイントをまとめます。
- PFOS・PFOAの飲料水基準4ng/Lは維持
- 遵守期限は2029年から2031年に延長方向
- PFHxS・PFNA・HFPO-DA・PFBSの10ng/Lは撤回・再検討を発表したが裁判所が阻止
- PFOA・PFOSのCERCLA有害物質指定は維持
- 「PFAS規制全体の撤廃」ではなく「選択的な維持と部分的な緩和」
- 2026年4月からTSCAによるPFASデータ報告義務が開始
- 「規制緩和政権だからPFAS規制は弱まった」という単純化は誤り









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