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2026年4月1日|PFOS・PFOA 水質検査 義務化スタート 省令公布済(2025年6月30日) 務化で何が変わるか →

栗田工業はPFASに「賭けて」いる─米Cyclopure出資で見えた、バリューチェーン総取り戦略

なぜいま、栗田工業に注目するのか

PFAS規制は、企業にとってリスクであると同時に、新しい市場を生み出しています。
PFAS(有機フッ素化合物)規制は、企業にとって「コスト」であると同時に、巨大な「市場」を生み出しつつあります。国内では2026年度から、PFOSとPFOAの合計値50ng/Lを目安とする水質基準への引き上げと検査義務化が進む見通し。米国ではすでに飲料水中のPFOA・PFOSに4ng/Lという厳しい規制値が導入され、各地の水道事業者が対策を迫られています。規制が強まるほど、それを解決する技術への需要は膨らみます。

この「規制が作る市場」に、最も明確に賭けているのが栗田工業株式会社です。象徴的なのが2026年4月の動き――同社は米国のPFAS吸着材スタートアップ、Cyclopure社へ出資し、同社の吸着材「DEXSORB」を米国の産業・自治体の水道顧客に独占的に販売する権利を獲得しました。単なる製品販売ではなく、出資という形で有望技術そのものを囲い込みにいった一手です。

しかも栗田工業の射程はそこにとどまりません。PFASの「分析」「除去」「濃縮」、さらに装置から有機フッ素を排除する「PFASフリー部材」の開発まで――PFASにまつわる価値の連鎖(バリューチェーン)を、ほぼ丸ごと取りにいっています。本稿では、この会社の輪郭と、その全方位戦略の中身を読み解きます。

栗田工業とはどんな会社か

栗田工業は、1949年に神戸市で創業者・栗田春生が設立した、水処理専業としては国内最大手の企業です。本社は東京都中野区、社長は江尻裕彦氏、東京証券取引所プライム市場に上場しています(証券コード6370)。出発点は「ボイラの水処理薬品」でしたが、そこから冷却水・排水処理へと広げ、いまでは水処理薬品・水処理装置・メンテナンスサービスの3つを柱とする総合ソリューション企業です。

事業は「電子市場」と「一般水処理市場」の2領域。電子市場では半導体・電子部品メーカー向けに超純水の供給や精密水処理装置を提供し、一般水処理市場では製造業・電力・鉄鋼・食品・公共インフラなどに薬品・装置・保守サービスを届けています。グループ全体では、土壌・地下水浄化、化学洗浄・精密洗浄、水質分析・環境分析まで手がけます。

つまり栗田工業のPFAS戦略は、長年積み上げてきた「分析・薬品・装置・運用・浄化」の総合力という土台の上に乗っている――この点が、後述するバリューチェーン総取りを可能にしています。

栗田工業のPFASバリューチェーン

栗田工業のPFASへの取り組みは、対策の「川上」から「川下」までをカバーしています。流れに沿って整理します。

① そもそも使わない・出さない(PFASフリー部材)。

2025年4月、栗田工業は水処理装置に使うPFAS素材や、製造工程でPFASを使う部材を、PFASを含まないものへ置き換える「PFASフリー部材」の共同開発を本格化させました。第1弾として旭有機材とPFAS代替素材を使ったバルブの実証を開始。さらに2025年7月には積水化学工業と共同で、従来の有機フッ素樹脂(PVDF)に代わる低溶出性の特殊オレフィン樹脂配管材を開発し、先端半導体製造の超純水用配管・継手のPFASフリー化にめどをつけました。実証は同社の研究開発拠点Kurita Innovation Hub(昭島市)で行われています。

② 測る(分析)。

クリタグループは、顧客に対しPFASの分析・処理・処理材の廃棄まで、技術的知見に基づいて支援しています。協業するカナダのFREDsense社が開発したPFAS分析キットの活用も進めています。

③ 除去・濃縮する。

家庭向けには、グループのクリタックが2024年からPFAS除去浄水器(蛇口直結型・ポット型・業務用)を発売。PFOS・PFOAを約80%以上除去できるとされ、店頭2000円台半ばを想定して全国のホームセンターで展開しています。製造業向けには、工場の水質分析から処理までの包括サービスを提供。そして大規模な除去・濃縮の切り札となるのが、次に述べるDEXSORBです。

④ 壊す(無害化)。

捕まえたPFASを最終的に無害化する技術や監視システムの開発も進めています。処理ニーズの増加で活性炭の不足が懸念されるとして、マイクロ波の活用なども検討していると報じられています。同社は将来的に、PFAS関連で受注100億円規模を目指す構えです。

今回の本丸──米Cyclopure出資とDEXSORB

2026年4月の出資は、このバリューチェーンの「除去・濃縮・無害化」を一気に強化する一手です。

出資先のCyclopureは、2016年設立、米イリノイ州エバンストンに本社を置くPFAS吸着材の専業企業です(CEOはFrank Cassou氏)。同社の吸着材DEXSORBは、植物由来のβ-シクロデキストリン(でんぷん由来のポリマー)を基にした材料で、いくつかの際立った特徴があります。

第一に、PFASを選択的に吸着し、天然有機物(NOM)・無機イオン・pHの変動に影響されにくいため、さまざまな水質で安定した性能を保ちます。第二に、再生して繰り返し使えること。第三に、捕まえたPFASを濃縮して、下流の「破壊(無害化)」工程に回せること。Cyclopureによれば、濃縮によってPFAS廃棄物の体積は元の汚染水の50万分の1にまで縮小でき、活性炭やイオン交換に比べて4〜10倍の吸着容量を持ち、幅広い種類のPFASを除去できるとされます。つまり「除去して終わり」ではなく、捕らえる→濃縮する→低コストで壊す、という”ゆりかごから墓場まで”の処理を一気通貫で設計できるのが売りです。

栗田工業とCyclopureの関係は、2025年9月にまず米子会社クリタアメリカとの提携として始まり、今回の出資でそれを深めた形です。米国市場ではクリタアメリカがDEXSORBの独占販売権を握り、さらにCyclopureがミシガン州に建設を計画する再生施設について、クリタアメリカが設計・建設・試運転を担います。技術(Cyclopureの材料科学)とエンジニアリング・販売網(クリタの装置設計・施工・顧客基盤)を組み合わせ、規制で立ち上がる米国市場を取りにいく構図です。

この戦略を「お金」の視点で読むと

栗田工業の動きは、PFASを「規制対応コスト」ではなく「成長市場」として捉え直していることを示しています。

ポイントは三つあります。第一に、自前開発に固執せず、出資という形で外部の有望技術(DEXSORB)を取り込み、時間を買っていること。第二に、単品販売ではなく「独占販売権+再生施設の建設受注」までセットで押さえ、収益機会を多層化していること。再生施設を自社で建てれば、材料販売だけでなく、施設の建設・運転・使用済み材料の再生という継続収益(リカーリング)も取りにいけます。第三に、最も規制が先行する米国を起点に据えていること。米国で実績と運用データを積めば、規制が本格化する日本やアジアへ展開する際の強力な布石になります。

もっとも、市場の立ち上がりや規制の行方には不確実性があり、DEXSORBの性能数値(4〜10倍の容量等)も一定の条件下での比較である点には留意が必要です。家庭用浄水器の「約80%以上除去」も使用条件を前提とした数値です。技術の優劣は、対象の水質、PFASの種類(長鎖・短鎖)、処理量、コストによって変わり、唯一の正解があるわけではありません。

自治体・製造業がここから読み取るべきこと

製造業(とくに東海エリアの自動車サプライチェーン)にとって。

注目すべきは「PFASフリー部材」の動きです。これは、自社の製品・設備に含まれるPFASをどう代替素材に置き換えるかという、サプライチェーン全体に波及する課題の先行事例です。栗田工業の「工場の水質分析から処理までの包括サービス」も、自社のPFASリスクを把握しきれていない企業にとって現実的な相談先になりえます。PFAS対応は「使う・使わない」の二択ではなく、「自社にどれだけの把握・処理・代替の能力を持つか」という体制の問題へ移りつつあります。

自治体・水道事業者にとって。

国内最大手が、出資という踏み込んだ形でPFAS市場に賭けているという事実自体が、この市場の本格化を告げるシグナルです。設備・薬品・運用・分析・無害化までを一括で相談できる総合プレイヤーの存在は、技術選定や事業者比較の際の重要な選択肢になります。

まとめ──「分かる」と「判断できる」のあいだ

栗田工業のPFAS戦略は、この問題が一過性のブームではなく、長期の社会課題であり、同時に巨大な市場でもあることを映し出しています。分析から、除去・濃縮、無害化、そして部材のPFASフリー化、さらには米国スタートアップへの出資まで――その広がりは、PFAS対策が「製品」から「総合的な体制」へ移ったことの証左です。

一方で、ここまで読んで「業界の全体像は理解できた」と感じても、「では自社・自地域はどこから手をつけ、誰に何を相談し、どの技術を選ぶべきか」を独力で判断するのは容易ではありません。分析結果の読み解き、規制動向の見通し、コスト試算、複数事業者の比較――そこには中立的な専門整理が必要です。

PFAS Solutions+では、こうした「方向性は分かったが、自分では判断しきれない」という段階の企業・自治体に向けて、初回無料での対応方向の整理を行っています。特定の装置や薬品、銘柄を売るのではなく、何から着手し、どこに相談すべきかの交通整理から、ご一緒します。

本記事は公開情報に基づき、PFAS対策の動向を解説する目的で作成したものです。特定企業・自治体との提携関係を示すものではありません。投資・財務に関する助言を目的とするものではなく、製品の除去性能や容量は使用条件により異なります。

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