ストックホルム条約(POPs条約)とPFASの規制拡大の歴史|2009年〜2025年COP12まで完全解説
「ストックホルム条約でPFASが規制されている」という表現をよく目にします。でもストックホルム条約とは何か、PFASがいつ・どのように規制対象になったのかを正確に説明できる方は少ないのではないでしょうか。
この記事では、ストックホルム条約の基本から2025年COP12での最新決定まで、PFASとの関係を時系列で完全解説します。
ストックホルム条約(POPs条約)とは何か
ストックホルム条約(正式名称:残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約、Stockholm Convention on Persistent Organic Pollutants)は、難分解性・高蓄積性・長距離移動性・毒性という4つの性質を持つ化学物質(POPs:Persistent Organic Pollutants)を国際的に規制するための条約です。
基本情報
- 採択 : 2001年5月(スウェーデン・ストックホルム)
- 発効 : 2004年5月
- 締約国数 : 186か国+EU(2025年時点)
- 日本の批准 : 2002年8月(発効は2004年5月)
- 事務局 : スイス・ジュネーブ
3つの附属書
条約の規制対象物質は3つの附属書で管理されています。
| 附属書 | 内容 | 規制の強さ |
| 附属書A(廃絶) | 製造・使用・輸出入を原則禁止 | 最も厳しい |
| 附属書B(制限) | 特定の用途を除いて製造・使用を制限 | 中程度 |
| 附属書C(非意図的排出削減) | 非意図的に生成される物質の排出削減 | 努力義務 |
PFASの場合、PFOS・PFOAはいずれも最も厳しい附属書A(廃絶)または附属書B(制限)に位置付けられています。
PFASのストックホルム条約規制:歴史の全体像
第1段階:PFOS(2009年・COP4)
PFASで最初に条約の規制対象となったのがPFOS(ペルフルオロオクタンスルホン酸)です。
2009年5月のCOP4(第4回締約国会議)
PFOSを附属書B(制限)に追加することが決定
附属書Aではなく附属書B(制限)となったのは、当時PFOSが半導体製造・航空機の油圧作動油など「代替が困難な用途」に使われていたためです。一定の用途については例外を認めながら、段階的に廃絶を目指す姿勢が示されました。
日本への影響:
この決定を受け、日本では2010年に化審法(化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律)によりPFOSを第一種特定化学物質に指定し、製造・輸入等を原則禁止しました。
第2段階:PFOA(2019年・COP9)
次にPFOA(ペルフルオロオクタン酸)が規制対象となりました。
2019年4〜5月のCOP9(第9回締約国会議)
PFOAを**附属書A(廃絶)**に追加することが決定
PFOSより規制が強い附属書Aに入ったのは、PFOA代替品の開発が進んでいたこと、科学的な健康影響の根拠が積み上がっていたことが背景にあります。
日本への影響
この決定を受け、日本では2021年にPFOAを化審法の第一種特定化学物質に指定しました。
第3段階:PFHxS(2022年・COP10)
PFOSの代替品として広く使われるようになったPFHxS(ペルフルオロヘキサンスルホン酸)が規制対象となりました。
2022年6月のCOP10(第10回締約国会議)
PFHxSを附属書A(廃絶)に追加することが決定
PFHxSはPFOSの代替品として使用が拡大していましたが、同様の残留性・蓄積性・毒性が確認されたため規制対象となりました。
日本への影響
2024年2月に化審法によりPFHxSを第一種特定化学物質に指定しました。
第4段階:長鎖PFCA(2025年・COP12)【最新】
2025年4〜5月、スイス・ジュネーブで開催されたCOP12(第12回締約国会議)で新たなPFASの規制が決定しました。
COP12(2025年4月28日〜5月9日)
長鎖PFCA(LC-PFCA:炭素数9〜21のペルフルオロカルボン酸)とその塩・関連物質を附属書A(廃絶)に追加することが決定
長鎖PFCAとは何か
炭素鎖が9〜21個のペルフルオロカルボン酸(PFCA)の総称です。EUでは一部(C9〜C14 PFCA)が2023年からREACH規則で先行的に規制されていました。
用途としては、フッ素ポリマー(フッ素樹脂)の製造過程での使用、撥水・撥油加工剤など。
日本への影響
2025年6月20日に厚生労働省・経済産業省・環境省の3省合同会議が開催され、化審法への反映に向けた検討が開始されました。附属書改正の発効は国連事務局から各締約国への通知から1年後となります。
PFASのストックホルム条約規制:時系列まとめ
| 年 | 会議 | 決定内容 | 対象物質 |
| 2009年 | COP4 | 附属書B(制限)追加 | PFOS |
| 2010年 | — | 日本:化審法で規制開始 | PFOS |
| 2019年 | COP9 | 附属書A(廃絶)追加 | PFOA |
| 2021年 | — | 日本:化審法で規制開始 | PFOA |
| 2022年 | COP10 | 附属書A(廃絶) | 追加PFHxS |
| 2024年 | — | 日本:化審法で規制開始 | PFHxS |
| 2025年 | COP12 | 附属書A(廃絶) | 追加長鎖PFCA(C9〜C21) |
| 2025年〜 | — | 日本:化審法反映に向けた検討開始 | 長鎖PFCA |
ストックホルム条約の規制プロセス
物質が条約の規制対象になるまでのプロセスを理解しておくと、今後の動向を読む際に役立ちます。
- ステップ①:物質の提案(スクリーニング)
締約国または機関が「この物質を検討すべきだ」と提案します。 - ステップ②:POPRC(残留性有機汚染物質検討委員会)での審査
科学的なリスク評価が行われます。通常2〜3回の会合を経て勧告がまとめられます。 - ステップ③:COP(締約国会議)での採択
POPRCの勧告をもとに締約国が採択を議決します。 - ステップ④:各国の国内法への反映
採択から1年後に附属書改正が発効。各国は国内法を整備します。
このプロセスを経るため、「リスクが指摘されてから規制が実施されるまで」に通常5〜10年の時間がかかります。
現在検討中のPFAS
POPRC(残留性有機汚染物質検討委員会)で現在検討中の物質も存在します。POPRC20(2024年9月)以降の審議継続物質として、いくつかの物質が審査プロセスに入っています。次回POPRC22(2026年10月、ローマ)での結果が注目されます。
まとめ
ストックホルム条約とPFASの関係のポイントをまとめます。
- ストックホルム条約は186か国が参加する国際条約で、難分解性・高蓄積性・長距離移動性・毒性を持つ化学物質を規制する
- PFASでは2009年のPFOS規制から始まり、2019年PFOA、2022年PFHxS、2025年長鎖PFCAと段階的に規制が拡大してきた
- 条約への追加決定から各国の国内法への反映まで通常1年以上かかる
- 日本は条約の決定を化審法(第一種特定化学物質の指定)で担保している
- 2025年COP12で決定した長鎖PFCAの規制が日本に反映されるのは2026年以降の見込み
- PFAS規制はPFOS・PFOAだけで終わらず、「PFAS全体」の包括的管理へと向かっている









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