WHOのPFAS飲料水ガイドライン改定の経緯と現状|100ng/L案はなぜまだ確定していないのか
「WHOはPFASについてどんな基準値を持っているの?」「日本の50ng/Lとどう違うの?」
この疑問に答えるためには、WHOの飲料水水質ガイドラインの改定プロセスを理解する必要があります。実はWHOはまだPFAS(PFOS・PFOA)の正式なガイドライン値を確定していません。どういう経緯でそうなっているのか、最新の状況まで詳しく解説します。
WHOの飲料水水質ガイドラインとは
WHO(世界保健機関)は「飲料水水質ガイドライン(Guidelines for Drinking-water Quality)」という文書を定期的に発行しています。各国が水道水の水質基準を設定する際の科学的な参照基準として世界中で使われています。
現在の最新版は第4版(2011年初版・2017年・2022年に更新)です。
PFASのWHOガイドライン:「暫定」のまま確定していない理由
WHOのPFAS飲料水ガイドラインの特徴は「正式な値がまだ確定していない」という点です。
現在の状況(2026年4月時点):WHOは飲料水ガイドライン第4版において、PFOS・PFOAについて暫定ガイドライン値として各100ng/L示しています。ただしこれは「暫定(provisional)」であり、正式な確定値ではありません。
物質とWHO暫定ガイドライン値
- PFOS : 100ng/L
- PFOA : 100ng/L
- 総PFAS(複数物質の合算) : 500ng/L(案)
WHOガイドライン改定の経緯
2017年:第4版への暫定値の組み込み
WHO飲料水水質ガイドライン第4版(2017年版更新)に、PFOSとPFOAの暫定ガイドライン値として各100ng/Lが盛り込まれました。「暫定」とされた理由は「科学的知見がまだ固まっていないため」でした。
2022年:背景文書の更新と100ng/L案の公表
2022年にWHOが「飲料水中のPFOS及びPFOA」に関する背景文書を更新しました。この背景文書では:
- PFOSの暫定ガイドライン値案:100ng/L
- PFOAの暫定ガイドライン値案:100ng/L
- 総PFAS(複数物質の合算値):500ng/L(案)
が示されました。当初2022年後半〜2023年前半に正式なガイドライン値として公表される予定でしたが、2026年4月現在も正式確定には至っていません。
2022年10月:米国EPAの暫定健康勧告値との大きな乖離
2022年6月に米国EPAが非常に低い暫定健康勧告値(PFOS 0.02ng/L・PFOA 0.004ng/L)を示したことで、WHOの100ng/L案との間に大きな乖離が生じました。これが国際的な議論を複雑にしています。
なぜ正式確定が遅れているのか
理由①:科学的知見の急速な蓄積
2022年以降もPFASの健康影響に関する新たな研究が次々と発表されており、それらを評価・反映するための時間が必要です。
理由②:各国の規制値との整合性の問題
米国の4ng/L・EUの複数PFAS合算20ng/L(2028年から)・日本の50ng/Lなど、各国の基準値に大きな開きがある中で、国際的な参照基準として「どの値を示すか」の政治的・科学的調整に時間がかかっています。
理由③:「PFAS全体」の評価の難しさ
個別物質(PFOS・PFOA)だけでなく「複数のPFASの合算値」をどう評価するかという新たな課題が加わり、評価の複雑さが増しています。
WHOの100ng/Lと各国基準値の比較
WHOが示している100ng/L(暫定案)を各国の基準値と比べると、その位置づけがよくわかります。
| 国・機関/td> | PFOS基準値P/td> | FOA基準値/td> | 備考 |
| WHO(暫定案) | 100ng/L | 100ng/L | 正式未確定 |
| 米国EPA | 4ng/L | 4ng/L | 2024年確定 |
| EU(2026年〜) | 複数PFAS合算 | 100ng/L | 4種合算20ng/L(2028年〜) |
| 日本(2026年〜) | PFOS+PFOA合算 | 50ng/L | 2026年4月施行 |
| オーストラリア(2025年) | 8ng/L | 200ng/L | ガイドライン値 |
| カナダ(2023年案) | 複数PFAS | 30ng/L合算 | 最終決定前 |
| 英国 | 100ng/L | 100ng/L | — |
WHOの100ng/Lは、現在の国際的な基準値の中では「比較的緩い」水準に位置しています。米国の4ng/Lはその25倍の厳しさです。
WHO暫定値100ng/Lの計算根拠
WHOはどのようにして100ng/Lを算出したのか、その考え方を解説します。
計算のプロセス
- TDI(耐容一日摂取量)の設定:PFOS・PFOA各20ng/kg/日を設定
- 体重60kgの成人が1日2リットルの水を飲む場合を想定
- 水からの摂取量はTDIの20%と設定
(日本は10%を使用。WHOは「10%は保守的すぎる」として20%を採用) - 計算:20ng/kg/日 × 60kg × 20% ÷ 2L = 120ng/L
→ 安全係数等を考慮して100ng/L
日本の50ng/Lとの差(2倍)は主にこの「水からの摂取割合(10%か20%か)」の違いから来ています。
今後のWHOガイドラインの見通し
2026年4月時点での状況と見通しです。
正式確定の時期:未定。科学的知見の蓄積と各国との調整が続いています。
値の方向性:米国の4ng/LのようなゼロMCLGの考え方は採用せず、TDIベースの計算で100ng/L周辺の値を正式化する可能性が高いとされています。
「総PFAS」アプローチの採用の可能性:個別物質ではなく「複数のPFASの合算値」で規制する方向性も議論されています。EUがこのアプローチを採用しており、WHO も同様の考え方を検討しています。
まとめ
WHOのPFAS飲料水ガイドラインのポイントをまとめます。
- WHOはPFOS・PFOA各100ng/Lという暫定ガイドライン値案を示しているが、2026年4月時点で正式確定には至っていない
- 正式確定が遅れている理由は科学的知見の急速な蓄積・各国基準値との整合性・PFAS全体評価の難しさ
- 日本の50ng/Lとの2倍の差は「水からの摂取割合を10%とするか20%とするか」の計算前提の違いから来ている
- 米国の4ng/Lはゼロリスクを目指す考え方で、WHOのTDIベースのアプローチとは根本的に異なる
- 今後も科学の進歩に伴い見直しが続く可能性があり、動向の継続的なフォローが必要









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