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いちばん捕まえにくいPFAS」をどう獲るかーランクセスが挑む短鎖PFASの最前線

PFAS(有機フッ素化合物)除去には、技術者が口をそろえる「最難関」があります。炭素鎖の短い「短鎖PFAS」です。規制が進むにつれ、産業界では炭素鎖の長いPFASから短いものへの代替が進みました。ところが、この短鎖PFASは従来のイオン交換樹脂や活性炭では捕まえにくく、水処理の現場で大きな課題となっています。

そんな最難関に、専用設計のイオン交換樹脂で正面から挑んでいる企業があります。ドイツの特殊化学品メーカー、ランクセス(LANXESS)です。同社は2026年5月、自社の選択性樹脂「Lewatit® MDS TP 108」を用い、ケマーズの工場排水からPFASを99.9%超除去できることを工場規模の実証で確認したと発表しました(出典:ランクセス発表、2026年5月)。

「PFASを作ってきた工場の排水を、別の会社の樹脂で限りなくゼロに近づける」——PFAS対策の現在地を象徴する出来事です。PFASのニュースは、汚染や規制といった「問題提起」に偏りがちですが、この発表は「どう解決するか」の側に立った報せであり、同時に、PFAS対策が新たな技術競争の段階に入ったことを示しています。


ランクセスとはどんな会社か

ランクセスは、ドイツ・ケルンに本社を置く特殊化学品メーカーです。
世界32カ国以上で事業を展開し、従業員は約12,000人、売上高は60億ユーロを超えます。
主力は、高機能樹脂・添加剤・工業薬品・水処理材料・消毒/保護製品などです。

PFAS除去の文脈で特に重要なのが、同社が世界有数のイオン交換樹脂メーカーであることです。
同社の「Lewatit®(レバチット)」ブランドは80年以上の歴史を持ち、飲料水処理・地下水浄化・工場排水処理・金属回収・PFAS除去など、世界中の現場で利用されています。
近年は再生可能原料を活用した製品開発にも力を入れており、持続可能性の観点からも注目されています。

つまりランクセスは、PFAS除去市場に突然現れた新興企業ではありません。
長年積み重ねてきた水処理技術を土台に、PFASという新しい課題へ挑んでいる企業です。

短鎖PFASは、なぜ「最難関」なのか

PFAS除去で広く使われる活性炭やイオン交換樹脂は、PFAS分子を吸着して水から取り除きます。
しかし、その捕まえやすさはPFASの種類によって異なります。

PFOSやPFOAのような長鎖PFASは、比較的吸着しやすい。一方で短鎖PFASは、水に溶けやすく、吸着材との結びつきも弱いため、処理水側へ抜け出しやすい特徴があります。
専門的には「破過が早い」と表現されます。つまり「捕まえたと思ったら、先に抜けてしまう」ということです。
そのため短鎖PFASは、活性炭でも従来型の樹脂でも除去が難しい存在として知られています。

世界は短鎖PFASをどう見ているのか

短鎖PFASが注目される背景には、世界的な規制の変化があります。
これまでPFAS規制の中心は、PFOSやPFOAといった長鎖PFASでした。
しかし近年は、欧州を中心に「PFAS全体」を管理対象として考える動きが強まっています。

欧州ではREACH規則の下でPFAS包括規制が検討されており、1万種類以上ともいわれるPFASを広く対象にしようという議論が進んでいます(出典:欧州化学品庁(ECHA)/REACH制限案)。米国でも、州レベルでPFAS全体への対応を求める動きが広がっています。

その背景には、短鎖PFASへの代替が進んだ結果、「長鎖PFASを規制すれば問題が解決するわけではない」ことが見えてきた事情があります。
短鎖PFASは、生体蓄積性は長鎖より低いと評価されるケースもありますが、その一方で水への溶解性が高く、地下水や河川を移動しやすく、しかも除去が難しい。
つまり、規制対象としても水処理対象としても、短鎖PFASは「次の論点」になりつつあります。
ランクセスが短鎖PFAS向けの専用樹脂を開発した背景にも、こうした世界的な流れがあります。

規制が進むほど、短鎖PFASは増える

ここで、PFAS問題ならではの現象が起きています。
長鎖PFASが規制される
→ 企業は代替品を探す
→ より短い短鎖PFASが使われる
→ 今度はその短鎖PFASが課題になる。
「規制したから終わり」ではなく、問題の形が変わっていくのです。

短鎖PFASは「水に溶けやすい・地下水を移動しやすい・除去が難しい」という、対策する側にとって厄介な性質を併せ持ちます。
そのため欧州や米国では、短鎖PFASを含めた管理や除去技術の開発が進んでいます。
ランクセスの取り組みも、その流れの中にあります。

PFAS除去市場は拡大し続けている

短鎖PFAS除去が注目される背景には、技術的な難しさだけでなく、市場の拡大もあります。
米国では飲料水規制の強化で多くの水道事業者がPFAS対策を迫られ、欧州ではREACH規制を中心にPFAS全体を見直す議論が進んでいます。

その結果、「分析・除去・濃縮・無害化・代替材料」のすべてに市場が生まれています。
本サイトで取り上げた栗田工業やメタウォーターも、この市場を見据えて投資や設備開発を進めています。
ランクセスの短鎖PFAS向け樹脂も、その大きな流れの中で見るべき技術です。

技術解説──「単分散・小粒径」という工夫

ランクセスが開発した「Lewatit® MDS TP 108」の「MDS」は、Mono Dispers Small(単分散・小粒径)の略です。
つまり「粒を均一に揃え、小さくする」という設計思想です。

この樹脂は、従来品より約3分の1小さい粒径を採用しています(出典:ランクセス製品情報)。
粒が小さいほど表面積が増え、その結果として吸着容量の向上・吸着速度の向上・短鎖PFASへの対応強化につながります。
さらに従来品より長寿命化も実現しているとされます。
これは単なる材料改良ではなく、短鎖PFASという難題に対して、長年の樹脂技術の蓄積が形になったものだと言えます。

PFAS除去技術を比較すると見えてくること

PFAS除去技術には、いくつかの代表的な方法があります。

最も広く使われているのが粒状活性炭(GAC)です。実績が豊富で導入しやすく、比較的低コストですが、短鎖PFASには弱く、交換頻度が増えることがあります。
次にイオン交換樹脂。活性炭より高い除去性能を持つケースが多く、特に短鎖PFASへの対応力が期待されますが、
原水の条件で性能が左右されるため、適切な設計が必要です。
さらに逆浸透膜(RO)。除去性能は非常に高い一方、濃縮排水の処理やエネルギーコストが課題になります。

つまり、活性炭が万能でもなく、RO膜が万能でもなく、イオン交換樹脂が万能でもありません。
重要なのは「どの技術が優れているか」ではなく「どの技術を、どの順番で組み合わせるか」です。
今回のケマーズ実証が示したのも、まさにこの“組み合わせ”の発想でした。その具体的な構成を、次に見ていきます。

なぜRO膜・活性炭・樹脂を組み合わせるのか

PFAS除去は、一つの技術ですべて解決できる問題ではありません。
RO膜にはRO膜の、活性炭には活性炭の、イオン交換樹脂にはイオン交換樹脂の得意分野があります。
役割を整理すると、次のような分担になります。

  • RO膜:PFASを濃縮する
  • 活性炭:長鎖PFASを除去する
  • 選択性樹脂:短鎖PFASを除去する

それぞれの得意分野をつなぐことで、単体では届かない範囲までカバーできる。
今回の実証は、「どの技術が勝つか」ではなく「どう組み合わせるか」が重要であることを示しています。

ケマーズ 実証─「分離・濃縮・破壊」をつなげた現場

今回の実証が行われたのは、オランダにあるフッ素化学メーカー、ケマーズの工場です。
その工場排水を対象に、次の流れが構築されました(出典:ランクセス発表、2026年5月)。

RO膜 → 活性炭 → Lewatit® MDS TP 108 → 高温焼却

まずRO膜でPFASを濃縮し、活性炭で長鎖PFASを除去し、最後に選択性樹脂で短鎖PFASを捕まえる。
そして役目を終えた樹脂は高温で焼却し、捕まえたPFASを破壊します。

この流れが重要なのは、「捕まえる」だけでなく「壊す」まで含めて設計されている点です。
PFAS問題の本質は「環境中に残り続ける」ことにあります。
だからこそ、除去 → 濃縮 → 破壊 まで一本の線でつながっていることに意味があります。
PFAS問題は、誰か一社だけで解決できるものではありません。
素材メーカー、水処理企業、自治体、製造業がそれぞれの立場で改善を積み重ねていく——その構図が、この実証から見えてきます。

ケマーズとはどんな会社なのか

ケマーズ(Chemours)は、デュポンから分離したフッ素化学メーカーです。
テフロンや冷媒など、フッ素化学の世界では非常に大きな存在で、PFASは長年このフッ素化学産業を支えてきました。
一方で、環境汚染や訴訟で名前が挙がることもあり、PFAS問題の難しさを象徴する企業でもあります。

そのケマーズ自身が、規制や訴訟を背景に、自社工場の排水処理の強化に取り組んでいる——今回の実証は、まさにその現場で行われました。
PFASを「作ってきた側」も「除く側」も、それぞれの立場でPFASと向き合わざるを得ない。
ここに、PFAS問題の現在地があります。

自治体・製造業がここから読み取るべきこと

製造業にとって

PFASと接点を持つ可能性のある業種は数多くあります。
重要なのは「PFASを使っているか」だけではありません。
過去に使用していなかったか、排水に残っていないか、調達する部材に含まれていないか、委託先で使われていないか——ここまで確認する必要があります。
今後は「使っているか」から「把握しているか」へと、論点が移っていくと考えられます。

自治体・水道事業者にとって

 短鎖PFASまで視野に入れると、RO膜・活性炭・選択性樹脂を組み合わせた処理設計が重要になる可能性があります。
欧州の事例は、日本の数年先を映していることがあります。
ランクセスの実証は、その好例かもしれません。

「解決する側」もまた動いている

PFASのニュースは、検出・基準値超過・訴訟・規制強化といった「問題提起」に偏りがちです。
しかし同時に、それを解決しようとする側も着実に動いています。

本サイトで見てきたように、メタウォーターは活性炭以外の選択肢としてイオン交換樹脂に、栗田工業はPFASを市場と捉え分析から無害化までに、そしてランクセスは最難関の短鎖PFASに——各社がそれぞれ異なる角度から「解決する側」を担い始めています。
課題は山積していますが、解決に向かう技術は確実に進化しています。

25まとめ──「分かる」と「判断できる」のあいだ

ランクセスの取り組みは、PFAS除去の最難関である短鎖PFASにも、専用設計の樹脂とシステム設計によって対応できることを示しました。
一方で、技術の選択肢が増えるほど、「どの技術が優れているか」ではなく「どの技術をどう組み合わせるか」を見極めることが難しくなります。

PFAS Solution+では、「方向性は分かったが、自社では判断しきれない」という企業・自治体に向けて、初回無料で対応方向の整理を行っています。
特定の装置・薬品・銘柄を売るのではなく、何から着手し、どこに相談し、どの技術を検討すべきか——その交通整理から、ご一緒します。


※「Lewatit」はLANXESS Deutschland GmbHの、「テフロン」はThe Chemours Companyの登録商標です。 本記事は公開情報に基づき、PFAS対策の動向を解説する目的で作成したものであり、特定企業・自治体との提携・推奨関係を示すものではありません。除去性能は対象水質・処理条件により異なります。 出典:ランクセス発表(2026年5月)/環境省 省令(2025年6月30日公布・2026年4月1日施行)/欧州化学品庁(ECHA)REACH制限案 ほか公開情報。

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